11月に入ってすぐ、文化祭があった。
 僕の油絵はどういうわけか、作品名が『倉♯』になっていた。倉井先生の苦肉の策らしい。
「ハル〜。クラシャープってなんだよ」
 カンちゃんにげらげら笑われた。
 僕は来訪客でごった返す校舎を駆け回り、裏庭のフリーマーケット会場にいた倉井先生にくってかかった。
 先生はいつもの『にこ』笑いで僕をかわした。
 なんだよ。なんなんだよ。
「こういうやりかたは卑怯だ」
 言ったって、先生の顔色ひとつ変わりやしない。
 先生の怒っているところ、心から笑っているところ、泣いているところ——見たことがない。
 誰にも心を許さない。開かない。受け入れない。
 顔の表面だけに、一見魅力的な、薄っぺらい笑顔を残して。
 ——そんなやりかたが、あってたまるかよ。


 機会を見つけて、びしっと言ってやりたかった。
 けれども事態は予測不可能の方向へと進んでいくのだった。