麻子「電話全然来ない。」

楓「ごめん。」

麻子「忙しいの?バイクの仲間がそんなに愉しい?」

楓「うん。俺さ、今すっげー欲しい服あって。チームの仲間達が着てる服、俺も欲しくてね、狙ってんだ。」

麻子「友達から見せて貰った楓君の写真、いつもジャージだよね。可愛いのに勿体ない。」

は…
何で服装迄言われなきゃなんない。
それでも僕の周りに居ないタイプの子。

楓「勿体ないって何?好きで着てるんだからいいだろ。」

麻子「あたしが楓君の顔だったら可愛い恰好いっぱいするけどね。ねぇ、文通しよ?」

暫く経ってから麻子と毎日の電話が日課になっていた。
麻子からの手紙も待ち遠しかった。
手紙には、毎回自分の写真を同封した。
彼女は、僕に前髪をぱっつんにするのと、赤チェックの服装を着せたがった。

麻子「やっぱり似合う。可愛い。」

次第に服装までもを、彼女の好みになってゆき、自身も周りからは好評だった。

僕から電話を掛けたのは三回目の時だった。
「なんとなく寂しい気したから電話した。」

麻子は
「寂しがりの癖に。」
と、いつものように微笑んでた。
それをキッカケに。

とある日、会話してるのに、自分の話をしていない麻子に気付く。

楓「口数と比例して、自分の話をしてない。麻子は。」

麻子「あたしは…いいの。つまらない女だから。ねぇ、もっと聞かせて?」

僕に話させる。
マジックか?
何かに取り憑かれたようにベラベラと。

楓「本当は仲間にも言ってないんだ。」

自分の好きな本や聴いている音楽を教えてゆく。

麻子「あたしも、その漫画の作者知ってる。その漫画、明日古本屋見てくるから、電話遅くなるかも。」

麻子はいつも喜んだ。
そして必ずソレを手にした。
まるで僕を見透かすように感想を述べる。
必ず。

麻子「この歌は楓君みたい。違う?ここの部分とか。」

楓「よく、俺の事見てるね。」

不思議に思った。
そこまで他人に対しての興味と言うものを、彼女くらいには持ち合わせては無かったから。
僕は彼女に問いただしてみた。

楓「楽しいか?暇じゃないの?」

麻子「全然愉しい。貴方が見えるもの。」

中学三年の冬、僕は泣いた。
とある瞬間の出来事。

楓「俺は…仲間とか良く解らねぇ。単車も、乗れねぇ。こうゆう音楽と本や映画があれば楽しい。…俺の事、誰も知らないから。」

麻子「…親も?」

楓「うん。愛されてない。」

幼少時代を語った。

麻子「……」

電話越しの鼻水をすする音。
僕は慣れてなく、怖かった。

楓「…泣いてる?なんで。」

麻子「私、あなたの事可愛いの。…辛かったね…抱いてあげたい。ずっと…どんな形でも傍にいるから。」

そんな事、誰にも言われた事ない僕。
彼女は僕にとって必要な存在になっていく。