『ごめんね、渡辺さんのことは友達としか見られないからムリ』
よほどショックだったのか、その後どんな会話をして、どんな風に家に帰ったのか覚えていない。
かろうじて覚えているのは、やけにアッサリとした成瀬くんの言葉と、足元から何かが音を立てて崩れていく感覚のみ。
そしてその日の夜、誰にも聞こえないように布団の中に頭を突っ込んだ私は、歯を食いしばって泣いた。
淡い期待を抱いていた自分が恥ずかしくて、なんだかとっても情けなくて、とにかく気が済むまで泣いた。
……そして、それから一週間後の今日。
机の中に『放課後に屋上へ来い』と書かれた手紙が入っているのを発見した私は、果たし状だろうがお礼参りだろうがなんでもいいや、という投げやりな気持ちで屋上へ行き――。
「な……っ、か、かんちがい男って、」
「もちろん貴方のことですよ田所くん、他に誰が屋上にいるっていうんですか」
私は、真っ赤になって固まる我がクラス1のイケメン・田所くんを見ながら思わず首を傾げた。
ちなみに、私が今手に持っているのは近所で美味しいと評判のこしあんパンだ。
屋上へやってきた田所くんが、『これで元気を出せ』とか言いながら押し付けてきたのでありがたく頂戴したのである。
けれど、私と田所くんには『クラスメイト』意外の接点なんて何一つない。
そもそも私はあまり男子と話す方ではないし、田所くんも驚くほど女子との接点を持ちたがらないのだ。
それこそ、『田所はソッチ系』なんて噂がまことしやかに流れるほどに。
そんな田所くんが、どうしていちクラスメイトである私に――と聞いたら、返ってきたのが冒頭の
『俺が好きなんだろう』
発言だったというわけだ。

