安堵しているあたしとは違い、周りの人たちはザワザワと桜坂くんに対して何か話している。


曰く、あんまりよくない言葉。


桜坂くんって見た目は、その、不良だけど頭はいいんだよね。


あとかっこいいし……


そりゃ男子からは妬まれるよね。



……でもあそこまで言うことはないのに。


いつもは流している言葉でも、今日はなんだかムッとしてしまう。


多分、いつもは遠巻きに見ていて何も知らなかった桜坂くんのことを少し知ったから、かな。


怖そうに見えて意外に優しい、とか。



あたしが少し非難めいた視線でみんなを見ていると、ぱちりと桜坂くんと目があった。


あたしはびっくりして目を丸くしてしまうけど、桜坂は何もなかったようにそのまま席に着いた。



……な、なんか少しだけ緊張した、かも。


ほっと息を吐いて前を向いた。




「よーし、ここまで」



先生の一言で少し騒がしくなる教室。


今日の補習はこれで終わり。


長かったぁ……



「帰りましょ、アイ」


「んー、ちょっと待ってね」



真琴を待たせて帰る準備をしながら、あたしの視線は自然と桜坂くんの机に向いていた。



あ、あの人……桜坂くんとよく一緒にいる人だ。


名前は分からないけど…



じっと見ているとその人と目があう。


にこり、と手を振られたので戸惑いながらも軽く頭を下げた。


落ち着いたダークブラウンの髪の人。


うん……桜坂くんとはあまりにも違った雰囲気の人だったから覚えてた。


その人は桜坂くんに何か言っているみたい。


何言ってるんだろ。



「アイ、早く」


「あ、ごめん真琴」



教科書を鞄に入れて立ち上がる。


教室を出るとき、また桜坂くんと視線があった。



気のせい、かもしれない……





『またな』





桜坂くんの口が、そう動いたのは……