桜坂くんは焦ったようにあたしの顔を見たり、頭を掻いたりしている。



……あたしは桜坂くんに散々振り回されたんだから、もっと困っちゃえばいいんだ。


ぐすぐすとさらに鼻を啜りながらそんなことを考えるあたし。


子供っぽいな、って自分でも思う。



「はぁ……とにかく、屋上入るぞ」



しばらくして、すっ、と桜坂くんはあたしの手をとって屋上に入り、扉を閉めた。


その間繋がれてた手にドキドキしていたのは、あたしだけなんだろうな……



日陰に向かい合って座るけど、お互い何も話さない。



……というか、ダメ。


全然涙止まらなくて、話せる状況でもないよ……



変わらず泣くあたしを見て、桜坂くんはそっと手を伸ばして、涙を拭った。



「……泣くなよ」


「…ぅぅ……っ…」



そう言われると余計に泣いてしまうわけで。


ポロポロと涙を流すあたしを、桜坂くんは呆れたような、困ったような顔で見る。



さっきまで、冷たい態度だったのに……


なのに、今、あたしの涙を拭う手つきはどこまでも優しい。


さっきの態度はどこ行ったんだ。



でも、よかった


いつもの、あたしが知ってる桜坂くんだ……



あたしはきゅっと桜坂くんの袖を掴んで、彼を見上げた。



「なんで……急に、俺に関わるな、なんて言ったの…?」



ぴくり、と桜坂くんの指が止まる。



「もしかして、あたしのため……?」



何も言わない桜坂くんにあたしは言葉を続ける。



「噂……あたしと桜坂くんの噂のこと、この前知って……
桜坂くんは優しいから、もしかして、あたしのために……!!」


「自惚れんなよ」



あたしの言葉を遮るような冷たい桜坂くんの声に肩がびくり、と跳ねた。



「宗田は関係ない。ただ、こういうのとか、噂とか……
全部めんどうになっただけだから」