しばらく驚いた顔をして立っていた桜坂くんだったけど、すぐに見たことのない冷たい顔になる。


思わずびくっと反応してしまうけど、桜坂くんが出ていこうとするのを見て我に返った。



「ま、待って……!!」



どうしよう……行っちゃう……


せっかくのチャンスなのに……!!



「待って……桜坂くん!!」



考えてる暇なんてない。



「桜坂くん、お願い、待って!!」



あたしは思いっきりその背中に抱きついた。



恥ずかしいとか、今はそんなこと関係ない。


とにかくこのチャンスを逃したくない……!!



「お願い……待って………!!」



あたしはぎゅっと腕に力を入れた。



「……離せ」



突き放すような桜坂くんの冷たい声に、あたしの心がズキッと音をたてた。



やっぱり……あたし、嫌われてたんだ……


そんなこと、分かってたはずだけど、実際本人にされると……すごく、辛い。


やっぱり、ダメなの……?


あたしじゃ……桜坂くんの特別にはなれない……?




視界がぼやけて、色がなくなる。


あたしの腕の力が緩んだのを見計らったように、桜坂くんはそこから抜け出した。


そのとき、どこか優しく払われた気がするのも……あたしの気のせいなのかな……?



俯いた顔からはポタポタと涙が流れ落ちていった。



「…宗田?」



あたしの様子がおかしいと思ったのか、桜坂くんがあたしの名前を呼んだ。



「宗田、顔上げろ」



言われるままに顔を上げたあたしを見て、桜坂くんは驚いてたように目を見張った。



……そりゃ誰だっていきなり女の子が泣き出したらびっくりするよね。


なんて頭の中で冷静に思っているのに、あたしは何も言えず、涙をとめることだってできない。


ただ、ポタポタと涙だけがこぼれていく。