カンカンと階段を上がる度にドキドキと大きくなる心臓の音。
うぅ……嫌でも緊張する。
会ったとしても何を話せばいいかなんて分からないし、声だってちゃんと出るかすごく不安。
それに、拒絶されたらって考えるだけでこんなに胸が苦しくなる。
でも……真琴にも言われたから。
後悔はしないように、って。
怖くても、逃げたくても、行かなきゃ……
一度ゆっくりと深呼吸をして、あたしは震える手で屋上の扉を開けた。
…………誰もいない。
「う、そぉ……」
あたしはへたり、と座りこんでしまった。
……緊張、したのに。すっごくしたのに。
心臓だってドキドキで、呼吸だって苦しくて……
嫌な考えなんて次から次へと浮かんできて……
なのに、誰もいないとか……
「あたしの緊張返せーーっ!!」
と、大声で叫んだ。
一応、あたしの心の中で。
「もう……ばかみたい」
はぁ、とため息をついてあたしは立ち上がった。
そのまま少し歩いて空を見上げる。
「……なんか、違うや」
いつもの空のはずなのに、なんだか今日の空は綺麗に見えない。
……違う。
桜坂くんと一緒に見てた空が綺麗すぎて、一人で見る空が物足りなく感じるんだ。
「…桜坂くん……」
そっとその名前を呟くと、カチャ、と小さく扉の開く音が聞こえた。
はっとして扉の方へ顔を向けると、そこには驚いたような顔をしてこちらを見る桜坂くんが立っていた。
「桜坂、くん……」
久し振り、だ……こうやって、向かい合って顔を見るの。
二人でいるのも……
そんな事実がどうしようもなく嬉しくて、じわりと視界が揺れた。