意味が分かっていないあたしを他所に、真琴は話を続ける。



「ねぇ、アイはあの噂知ってる?」


「うわさ…?」



きょとんとするあたしを見て、真琴は小さくやっぱりと呟く。



「……最近、アイってお昼休みになると屋上行ってたでしょ?」


「うん」


「そこで桜坂と会ってた」


「うん」


「それを誰かが見たらどう思う?」


「どう思う……?」



首を傾げるあたしに真琴はつまり、と言った。



「アイと桜坂がデキてるって噂になってたのよ」


「……へ?」



予想もしない答えに一瞬頭が真っ白になる。



「多分、みんな面白半分で噂していたみたいだし、二人の耳には入れないようにしてたんだと思うけど……
その噂のこと、この前、桜坂が気づいたみたいなの」


「そ、なの……?」



これもあくまで噂よ、と真琴は言うけど、その瞳はそれが真実だと言っているみたいに真剣だった。



「わたしは桜坂のことよく知らないからなんとも言えないけど……
アイの話を聞いていると、桜坂の悪い噂とは全然イメージ違うし」



というか、むしろ逆なイメージだわ、という真琴の言葉にあたしも頷く。


全くもってその通りだよ。


あたしも最初びっくりしたもん。



「だから、もしかしたら……」




アイのこと考えて、関わるなって言ったんじゃないの?




その言葉を聞いた瞬間、ポロリと新しい涙があたしの頬を濡らした。



「うっ…うん……きっと、そうだよぉ…」



あたしは、ちゃんと知ってるもん。


桜坂くんが、ほんとはすごく優しいってこと。


手を踏んじゃっても、怒らなかった。


倒れそうになったあたしを、支えてくれて、心配してくれた。


お礼って言ったら、ありがとうって、優しく笑ってくれた。


あたしとの話だって、覚えててくれた。


あたしに、迷惑かけないようにって、あたしのこと考えてくれた……