「別に一緒に教室戻ればいいのに……」
カンカンと階段を下りながら、そんなことを呟く。
いや、一緒にいたいとかもう少し話をしていたかったとか、そんな深い意味とかはなくて、ただ……ほら。
どうせ教室でしょ?
目的地は同じなわけなんだから、一緒でもおかしくないんじゃ……
………ダメだ。
客観的に聞いていると言い訳みたいに感じる。
一度、自分を落ちつかせるように息を吐いた。
そういえば、初めて桜坂くんとちゃんと話した日も、桜坂くん先に行けっって言ってた気が……
あ。あとで行く、だったかな?
まぁそんな感じの言葉を言っていた気がする。
まるであたしと一緒に教室に行くのを避けるみたいに……
「あれ?」
ピタッとあたしの足が止まる。
……今、胸がちょっとチクッてしたような……
「き、気のせい、気のせい……」
そう……気のせい、だよね。
ぶんぶんと頭を振って、頭の中の曖昧な考えを追い出す。
よし、と気合いを入れて、あたしはまた足を動かした。
教室に戻り、真琴と少し話した。
というか、まぁ、どこ行ってたの?みたいなことを質問されていたんだけど……
そこはなんとか誤魔化して。
チャイムが鳴り、あたしが席につくと同時に桜坂くんが教室に入ってきた。
ちゃんと来たんだ、なんて少し失礼なことを考えながら桜坂くんを見ていたらぱちりと目があった。
一瞬、一瞬だけ、桜坂くんがふっとあたしを見て少し笑った。
うぅ……なんか、頬が熱い。
あたし、どうしちゃったんだろ。
「おーい、宗田、立てぇーっ!!」
「あぅっ」
自分のことばかり考えていたせいで先生の声に気づかず、あたしは見事におでこにチョークを受けてしまった。
弓道部顧問めぇ……
みんなに笑われたのはいうまでもない。