「そうだな。去年と比べるとだいぶ暑いらしい」
「えっ、そうなの?」
「あぁ。新聞に載ってた」
さ、桜坂くんが新聞……
「今、似合わないとか思っただろ」
「えっ、いや……その、意外だなぁ、とは思ったけど……」
桜坂くん、鋭いです。
「まぁ、自分でも似合わないと思うけどな」
少し苦笑して桜坂くんは前髪を掻きあげる。
その姿にドキンと跳ねる心臓。
いや、だって……その、なんていうか、色気というのか?
それがふわりと舞ったというか…その……
つまり、男の子に免疫のないあたしにとっては毒なわけですよ。
「どうした?顔赤く見えるけど」
「ナンデモアリマセン……」
「ほんとか?」
「ほ、ほんと!ほんとに大丈夫!
そ、そういえば、桜坂くんって思ったより髪の毛長いんだね!」
自分でも苦しい話の変え方だとは思うけど、桜坂くんはそれには気づかなかったみたい。
よかった……
「あぁ……切りに行くのが面倒で、つい伸ばしっぱなしにな」
「へぇ……そうなんだ」
なんか、意外な一面を見たかも。
「でも、それ分かるかも。あたしも前は髪の毛短かったんだけど、つい伸ばしっぱなしにしちゃって……
気づいたらこんなに長くなってたんだ」
自分の女子力の無さに笑えてくる。
こういうとき、真琴の女子力を分けてほしいとつくづく思うよ。
「そうだ。桜坂くん、手出して」
このまま桜坂くんに女子力ゼロの女だと思われるのは、なんか嫌だし。
「?」
「はい、これあげるね」
ころん、とあたしは桜坂くんの手に髪ゴムをおいた。
「いいのか?もらっても…」
「うん、あたしはもう一つ持ってるから。おすそわけ」
「……サンキュ」
優しい笑みを浮かべる桜坂くんに、また胸がドキンと音をたてた。