「他にも操られてない人は
いるのかな?」

「恐らく、もう日本には
いないだろう……」

見ず知らずの老人が、
私たちのそばに立っていた80歳はゆうに超えているだろう。髪は真っ白だが
ふさふさしていた。
細い目は、とても優しそうだった。でも、悲しい顔をしていた。

「どういうことですか?」
日が聞いた。

老人は静かに話し始めた。
「君たちもとっくに気付いてると思うが、この町は
操られている。なぜそんなことが出来るかというと
これは私も知らなかった
事なのだが、人の個性とか自分らしさっていうものの源は、人の心の中にある
心の絵というものなんだ。その人の心の絵がどんなものかによって性格や好み、考え方が決まる。
そね心の絵を誰かが人々から奪った。だから人々は
型にはまった生き方をし始めた」

「心の、絵……」
日がつぶやいた。

「じゃあ、なんで私たちは
操られてないんですか?」
私は老人に聞いた。

「君たちは……心の絵を
持っていないか、または
心の絵を二枚以上持って
いるのではないかな?
人々から心の絵を奪った
集団は、日本の人口を調べその数だけ絵を奪った。
そしてその代わりに自分たちで用意した、代わりの絵を入れた。方法は解らんがね。だから、絵を持っていなければ奪えないし、
たくさん持っていても
1枚しか奪われなかったらそのままその人間に何の
変化もない」

そこまで老人は話して
深いため息をついた。