四月の魚 〜溺れる恋心〜【短編】


『だけど、ずっとそれだと困るでしょ?将来就職して、職場にイケメンがいたらどうするのよ。

うっかり手が触れるなんてことあるわよ。蕁麻疹出るからその人と仕事できませんなんて通用しないわ』


正論を畳み掛けるように言われて、それに勝てる言葉が思いつかなかった。

あたしはベッドに体を倒して、息をはいた。


「もう、わかったわよ。彼と付き合って、蕁麻疹を治せばいいんでしょっ」

『そんな投槍に言わないで。朝倉くんは本気なんだから。春希も本気で彼と向き合わないと治らないわよ』


まっとうな柚子の言葉にあたしは恥ずかしくなった。


いい加減な気持ちで彼と付き合っちゃいけないんだ。

付き合うなら、ちゃんと彼の気持ちを受け止めて考えなきゃいけない。


「…そうだね」

あたしは小さく呟いた。


「彼の気持ち、真剣に考えてみる」

『そうしなさいね。それにしても、これでもし本当に二人がくっついたら、あたしってキューピッドね』

「キューピッドって…」

『だって、そうでしょ?あたしのおかげで春希は朝倉に嘘の告白をしたんだから』


これをおかげと言うのか、せいでと言うのか。

あたしは大きくため息をついた。


そう、すべては柚子のせいなのだ。