四月の魚 〜溺れる恋心〜【短編】


「もしもし、柚子、怒ったの?」

『あ、いや、朝倉だけど…』


てっきり柚子がかけ直してきたと思い込み、誰からの発信か確認せずに出てしまった。

携帯から聞こえたのは男の声だった。


あたしは驚いて飛び起きた。


「朝倉くん!?やだ、柚子かと思って…」

『さっきから何度かかけてたんだけど、ずっと電話してたよね。誰と電話してるんだろうって気になってたけど、柚子って小松さん?』

「う、うん。そうなの」


答えながら、前に落ちてきた髪の毛を後ろに流す。

電話越しの彼の声がいつもと少し違って聞こえて、なんだか落ち着かない。


『そっか、良かった…』

「え?」


『いや、もしも男と電話してたとか色々と考えてしまって…』

「男って…!」


これってもしかして嫉妬されてる?

あたし、本当に彼に好かれてる?


バクバクする心臓を押さえながら、声を絞り出した。


「…あたし電話するほど親しい男友達なんていないから」