秀樹を乗せた車は、山間を抜けて街に向かっていた。



車から見る風景は、あっという間に過ぎ去り、そのこともまた寂しさを増幅していっていたのだ。



「秀樹、引っ越し作業なんて初めてだし疲れただろ。
新しい家に着けば、また荷物運びがあるから、それまでゆっくり体を休めておけな。
秀樹は自分の部屋の段ボールだけでいいから」



「なぁおとん……
おとんは、この村から引っ越しするのって初めてなんか?」



「あぁ。お父さんはこの村に育てられたからな。ずっとこの村にいたんや。
お母さんもこの村で育ったから、一緒にな」



「そっか……そうやったんか……
じゃあ、おとんも辛いよな。
俺ばっかりが辛いんじゃないんよな……
昨日ごめんな……だだこねて……」




そう話した秀樹は、河童山を何度も何度も車内から振り返り、この夏に起きた様々な想い出を振り返っていたのだ。



「カッパァ……
どこかで生きてるって、俺は信じてるからな……」



「グァァァァァ」



秀樹の耳には、カッパァ華が咲き乱れた場所で、河童の鳴き声が聞こえた気がしていた。



それは優しく温かい音色のように。