『いいえ』の代わりに私は笑って首を振る。



誰を想って、どうして、何のために、


泣いていたのですか、と。



聞きたいのに、この人の傷をえぐってしまうのではないかと、



そして、自分も傷つくのではないかと、



聞けない。



この人から口を開くまで待とう。

いつまでたっても、聞けなかったら、

このことを忘れてしまおう。


そう決めて、もうとっくに始まっている授業に、

なにもお互いがお互いを意識しないようにして戻っていった。