「起きてんの?」



瞬きせず横になる姿は不思議だったようで、怪訝な顔で覗き込んでくる。



「帰れるか?」



まだ優しい優輝さんは髪の毛を拭きながらあたしにペットボトルを渡した。

キンキンで気持ちいい。


「親に連絡した方がいいんじゃないか」


優輝さんの携帯も渡された。


これも光に言われたが故の優しさなんだろうか?


考えるとテンションが下がる。


「ありがと、ございます」


あたしの声はガラガラで喋れるレベルじゃない。


それでもお母さんに電話をかけた。



「もしもし、おか、さん」


『葵?どこにいるの?』


「光の友達と一緒…。
もう帰るから」


『大丈夫なの?声がかすれてるけど?』


「うん。泣きすぎて…」


『お友達さんに代わってちょうだい』


「分かった…。優輝、さん」



お母さんは優輝さんが悪い人だと思っているのかもしれない。


確かに怖い人だけど、悪い人かどうかは今の所分からない。

人を信用するのはとても怖い。


けれど、お母さんが話せばいい人か悪い人か分かるかも…。


そんな期待を込めて携帯を渡した。



「代わりました、光の友達の久石優輝です」


「はい。あ、いえ、まぁ。
はい。責任を持って送り届けます。
お約束します。
はい。失礼します」


落ち着いてる。

優輝さんの名字、はじめて知った。


電話を切った優輝さんは自分の荷物の中から着替えを取り出してあたしに渡してきた。


「さすがにバスローブじゃなぁ。ちょっとでかいかもしれないけど。ないよりましだろ」


また泣きそうになるあたしってどんだけ情緒不安定なの?


「こっからタクシーで帰る。
普通に外出て写真撮られても嫌だしな」


巻き込まれたくない、そう言ったようだった。


「ホテルから乗るのもなかなか嫌だけどな」


冗談っぽく笑う優輝さん。
これが本当の優輝さんだったら、どれだけ嬉しいことか。

またきっと、あの冷たい眼差しで見られる時が来る。