それに、明後日僕が行くのにはもう一つ理由がある。
4ヶ月前のこと。
葵に話さなければいけない。
本当はすぐに話すべきだった。
でもやっぱり、葵は自分を責める。
そうやって葵のためだと見せかけて逃げて逃げて逃げ続けて、今また言いにくい状況を作ってしまっている。
どのタイミングで言おう?
どうやって伝えれば葵は自分を責めない?
誰も悪くないと言える?
…僕にはわからない…。
僕は、…どうしてこんなにも無力なんだろう?
「明後日は、ほんまに来んでええ」
「いいや、行かなきゃいけない。
悠希のこともその時話す」
ここでなぜかサングラスを外してしまった光。
この部屋にはいつ誰が入ってくるかわからないんだよ?
なんで外したの?
「ちょっと、サングラス…」
「もうええねん。
どうでも。
カミングアウトして引退する」
!?!?!?
なにをおっしゃる。
大スターがそんなこと…葵のためにやってたからってそんなの勝手すぎる。
「葵以外の子たちの気持ちは?」
「知らんわ。名前も知らんただの集りたがりやんか」
「…そんな言い方ないんじゃない?」
何の情報も公開しないYをここまで大きくしたのは、お父さんの力だけじゃない。
そんなこともわからないの?
いや…分かってるよね?
「もうほんまにどうでもええねん」
「本気で光…Yのことを応援してくれている子たちもいるんだよ?
どんなに悪評や、変な噂がたっても離れて行かなかったファンの子たちがいるん…」
「俺にとっては他人やって言っとろーが
!!!!!」
バタッ
「あっ、すみません、ものすごい怒鳴り声と物音がしたもので…」
光が怒鳴った直後にドアが思い切り開き、スタッフが何人も入ってきた。
「makoさん…と…Y………さん?」
先頭を切って入ってきたスタッフが僕と光を交互に見る。
収録後の衣装のままだったからだろう。
サングラスをかけていない光がYだと分かったようだ。
「ああそうや、これが素顔じゃ。
あんな風に怒鳴り散らす反抗期真っ只中のガキが世間を賑わせたあのYやがな!週刊誌でもなんでも売りまくれや!
Yは噂通り生意気で性格の悪いクソガキやったって書けばお前ら全員大儲けやろーが」
光……。
スタッフみんな目が点になってるよ…。
「俺はもう芸能界なんてやめたる。
引退セレモニーは事務所の会議室でヒッソリとでも書いとけアホ。
本名知りたきゃ教えたるわ。
年もこうなった経緯も全部赤裸々にな!」
「ねぇ。
これからのイベントを心待ちにしてるファンの子たちの期待を裏切るようなことはしないでほしいかな」
「べっつにお前に関係ないやん」
「なくない。葵だってひかちゃんのファンだったんだよ?」
「…っ…」
「本当にそんなこと言っていいの?」
「…知らん。もうお前とは関わりたない。葵と仲良く女の子ごっこしとけボケ」
光はそう言って呆然とするスタッフたちの間を通って会議室を出た。
…サングラスを置いて。


