そのかっぱはフィロンと名乗った。
とりあえず僕の家へ、と言って無理やり池に連れ込まれ、また不思議なことに別の世界にきていたのだ。

そこは古い集落のような、昔話を彷彿とさせる村だった。藁葺きの建物が幾つも並び、そのうちの一つに連れ込まれた。これがこのフィロンの部屋なのだという。

内装は思った以上に充実していた。家具一式も揃っていて日本家屋のような北欧のような...なんだが心があったまる部屋だ。

「奈留さん、僕は嬉しいよ。あなたのような若くて可愛らしい方がこの村に来てくださって。」

日本語を喋っている。今更ではあるが河童が日本語を話しているのはとても奇妙な光景だ。

そいつはすっかりくつろいで背中の甲羅をどっこらしょ、とおろした。

まぁこのドリンクでも飲んで。そう言ってテーブルの上にコースター、そしてまん丸い金魚鉢のような入れ物に入った鮮やかな紫色の液体。

「これ、飲めるの?」

フィロンは口をにっと伸ばして目を細めて数回頷いた。