「雨で浮かぶ物語もあるし。」


結城がぱたんと本を閉じて言った。




「青空を拝みたい。雲なんてそんなになくたっていいのに。」


優芽は立ち上がって、窓を覗き込んでみた。


空は相変わらず雲模様で、青空などちっとも拝めやしない…。




「失礼するよ。」


と、突然訪問者が。




みんなが一斉に扉の方を見遣るとそこにはなぜかの、神代恭弥。




「?」


「用があって来たんだ。」




ばさっ。


恭弥は持っていた紙の束を机に置いた。




「これ、よろしく。」


それだけ言うと、恭弥は温室を出ようと後ろに振り返った。




「ちょ、ちょっと待って下さい。」


愛衣が思わず恭弥を制止する。




「何?」


恭弥はくるっと向き返って聞いた。




「何するんですか…これ。」


「見ればわかるよ。今月中によろしく。」




今度こそ恭弥は、温室を後にした。