『・・・・・・もしもし?』



少しの間が空いた後に聞こえてきた、あの頃とは少し違った低い落ち着いた声。
それでも、相手はちょっと不安そうにこちらの様子を窺うように問いかけた。


・・・トクン


鈍い音が半音上げたように聞こえたのを気づかない振りをして、平然を装いながら携帯越しに声を返す。


「もしもし、久しぶりだね。どうかしたの?」


あくまでも平静に、平静に・・・。


呪文のように心で唱えながらこちらも様子を窺う。
そんなあたしの様子をやはり気になるのか、片手にお酒を持ちながら、市原が横目で見ている。


『あ、いや。今さ、俺○○にいるんだけど。そっちに行く電車乗り遅れちゃって・・・』


焦りも感じられるその口調に、少し心配になった。
○○とは、今いる居酒屋から車で20分くらいかかる所だった。今の時間を乗り過ごしてしまえば、あの本数の少ない駅は次に電車が何時くるか分からない。そうなると、この同窓会にも顔を出すのは難しいだろう。

『市原に迎えに来てって頼んだら、もう酒飲んだから無理って言われて』


なるほど、確かに市原はすでに3杯くらいグラスを空にしていて、今もなお飲み続けている。この状態で車を運転するのは困難だ。

『そしたら市原が、女子で何人か酒飲んでないやついるからその中で運転できるやつに頼めって言われて・・・』


「それで、お酒も飲んでなく免許も持っているあたしを呼んだと」

ここまでの経緯はよく分かった。
周りを見ると、男子はもちろん女子の大半はもう大分酔ってきている。そして、残ったお酒を飲まない数人の女子を見ても免許を持っている人はいない。


だから、あたしを呼び出したんだ。

決して、過去にあった出来事が関係していたからではなく・・・


少し、期待を持っていた自分が恥ずかしくなって履いていたスカートの裾をきゅ、っと握った。