あっという間に、ギルド「天使の誘惑」<ハニーエンジェル>の門の前まで来たカンナヅキは、空を飛ぶ浮遊感から解放され地面に座り込んでしまった。
「やっぱり馬車借りなくてもよかったじゃん……」
そう呟いたカンナヅキの声など聞こえない、というように男の子はカンナヅキに微笑みながら、手をさしだす。
立て、という事だ。
ギルドの中に入ると、相変わらずの騒がしさだった。入ってすぐ空いている席があったので、男の子はそこに座って居て、とだけ言ってカウンターの方まで行ってしまった。
カンナヅキは何をするわけでもないため、男の子を見ていた。
カウンターには、カウンターの受付嬢のイラーリと話す長い黒髪を変わった結い方をしている人が居た。
体格的に男にも見えるが、後ろ姿では性別は判断しにくい。
男の子はその人物に何やら話しかけて居た。
その人物はこちらを見て、何か声を漏らし少し男の子と会話をし、カンナヅキに向かって歩いてくる。
汚れ一つ無い真っ白な服はカンナヅキの目の前で止まる。
「やぁ、君が新しくこのギルドに入る子なんだね」
「あ、はい…カンナヅキです。カンナでいいです」
「僕は、ここ「天使の誘惑」<ハニーエンジェル>のギルドマスター、ティア、だよ。僕は適当に呼んでくれて構わないから」
男は、ティアと名乗った。
ティアは綺麗な長い黒髪に、メガネをかけた顔立ちも中世的な男だった。
優しい笑顔には似合わない、左の目から頬を縦断するような大きな傷跡があった。
「それにしても素敵な子だね、君のような子がうちのギルドに入ってくれて嬉しいよ。…そうそう、このギルドの皆は、家族だから。君もここのギルメンとして、ギルメンの皆を大事にしてね…僕もギルメンの皆は、本当の家族のように愛しているから………」
笑顔で閉じられていた瞳は、黒曜石のような瞳だった。


