「昨日は、そうですね…セイレーンは現れなかったようです、ね」
うまく都合が合い話を聞くことができたディエヴァはそう言った。
どうやらディエヴァは今回の事件以来「男女奏」<ウーマンテット>のギルド寮に寝泊まりしているらしく、その寝泊まりしている部屋も常に監視体制にあるらしい。
昨晩監視していた人からの話によると、昨日ディエヴァは部屋から出る素振りはなかったらしい。
部屋の扉からはもちろん、窓からも。
その事を聞き、少し安心するカンナヅキ。
しかし、安心だけはしていられない。ディエヴァがセイレーンとなってしまう条件が狂ったのだから。
条件が絞られているのとは大きな違いが生まれた。
「次の、公演はいつですか」
「明後日……少し遠い町での公演だけど」
男の子はそれを聞き、うつむき黙った。
セイレーンが現れる条件として、「公演があった日」を含むか否かを、悩んでいた。
昨日は、公演があった。が、セイレーンは現れなかった。
しかし、今まで公演のない日にセイレーンは現れなかった。
悩み前かがみになる男の子を、カンナヅキは何も言わずただ見下ろしていた。
本当に、少年なのか。
見た目は、12〜3歳。
自分とは違う大人びた雰囲気と懐かしい何かを感じながら、ただ、男の子を見下ろしていた。
「今回の事件が起きてから、今までどこで公演をしていたか教えてもらえますか」
頭を抱えていた男の子が、身を起こし、リュックに手をつっこみながらそう言った。
そして、大きな地図を広げた。
カンナヅキも見たことのある地図だった。今、居る我が王国「Johann」<ヨハン王国>の全体地図だった。
小さなリュックから、机からはみ出るほどの大きな地図がどうして出て来たのかも疑問に思ったが、何も言わずに後で聞こう、と心にとどめた。
男の子はさらに、太めのペンを取り出し軽く振るとキャップを開けた。
独特のインク臭が鼻をついた。
「あ、えと、そう、ね…確かジャスミンの町だったと思うわ」
ディエヴァは無機質な部屋を見ているのか見ていないのか、左上の方を向いて考え込む。
男の子はすぐ様小さくジャスミンと表記されているところをペンで囲んだ。
地図に直接書き込むのではなく、少し地図から浮いているように見える。これもまた、人口の魔器を使われているのだろうと思うが、どのような理屈でそうなるかは分からない。また、カンナヅキは後で聞こう、と心の中で呟く。
「えっと…日付と、公演時間も教えてもらえますか」
男の子は少し申し訳無さそうに、はにかんだ。
ディエヴァは声を唸らせて考え込んだ。
「…ごめんなさい、日付は覚えているけれど、公演時間までは………ちょっと待っててね」
そう言うと、ディエヴァはそそくさと部屋をあとにした。


