「ディエヴァさんが、セイレーンになるにはある程度の条件があったよね?わかる⁇」
「えっと確か、公演のあった日の夜!…だよね?」
カンナヅキは言い切るも、少し苦笑いで首を傾げてしまう。
男の子は、正解、とだけ言って話を続けた。
「それも、必ず森に向かうんだよね。森に向かってる途中でも歌を歌ってるみたい」
「…で、僕は過去…それもごく最近、身近で、同じような内容の依頼を聞いたんだ。」
男の子は飲み干したティーカップをおいて、手をテーブルの上でくんだ。
「四年前、ラナーとトゥーヴァが、セイレーンの討伐という、依頼を受けたんだ」
まさか、とカンナヅキはラベンダーティーを飲む口を止めた。
「セイレーンの呪い…いや、セイレーンが使う魔法のしかけをその時に聞いたんだけどね、それを教えるよ」
男の子は、今度は利き手の右手の人差し指を空にさし、よく聞いていてね、とつけたした。
「まず、セイレーンは生き物であれば対象外のない、魂を操る古〜い魔法を使っているんだ。歌を歌うことで、魂を操れる…使いようによっては「呪歌」<ジュカ>にもなる。」
男の子は言葉を休めることなく、続けた。
「セイレーンは、一言で言ってしまえば、不死なんだ。」
不死…死ぬ事のない、そんな事があり得るのだろうか、とカンナヅキはまだ三分の一ほど残ったラベンダーティーを置いて、男の子の話に聞き入っていた。
「セイレーンは不死の状態になるため、二百年に1度の回数で、魂を別の肉体へ、自分の魔法を使って移動するんだ。そうやって、もう本人も数え切れないほど肉体の切り替えをして生きながらえている」
「その肉体の切り替えを妨害する依頼が、ラナーとトゥーヴァか担当した依頼なんだ。1度妨害してしまえば、セイレーンは肉体を失う事となる。」
「って事はセイレーンは死んだってわけ?」
「って思うでしょ?ふふ、お姉さんはいい所に目をつける。それが、死んだ事にならないんだよね」
男の子は困ったように、眉を下げながらカンナヅキを見やる。
当のカンナヅキは首を傾げるばかりであるが。
「セイレーンはうまいこと、魂だけを安全な場所へと避難させるんだ。そして、その魂に肉体を乗っ取れるほどの大きな魔力が溜まるまで、千年の時を魂だけで待つんだ。肉体があれば二百年程度で溜まる魔力なんだけど。魂だけでは、歌にのせて人を呪い殺す事もできない」
「…まぁ、生きる事に固執してしまった哀れな妖怪だね…呪われてるのは最早セイレーンの方かもしれない」
そんな悲しいセイレーンの呪いを聞いて、カンナヅキは矛盾点を見つけた。
「…ってことは四年前ラナーとトゥーヴァは肉体の切り替えの妨害に失敗したってわけ??」
当然、先ほど男の子が述べたとおりであると、今セイレーンは魂だけの状態で魔力が溜まるのを待っているはずだ。
それをカンナヅキが尋ねると、男の子はにやり、と珍しい笑を見せた。
「そうだね。でも、ラナーとトゥーヴァは依頼の遂行を一番に優先させる。特にラナーなんかはそれが強すぎて、自分の命を何度か落としかけてる。…それに、僕達なんかよりも2人は数多くの依頼をこなし、エキスパートと言っても過言ではないね。魔導会にも認められる程の実力だから」
男の子の、そんな話からとてもではないが、あの2人がその依頼の遂行に失敗するわけがない、カンナヅキもそう考えた。
「だから、僕は今回の依頼、何かタネがあると思ってる…ほら、ディエヴァさんも凄く気になる事を言っていたでしょ?」
カンナヅキが考える、ディエヴァとの会話で気になる事、といえば一つしかなかった。しかし、それが男の子と同じ事をさしているかはいささか不安ではあった。
それは、男の子がある質問をした、その返答だった。


