水道を止めると、静寂した部屋に、外から雨音が入り込んできた。


冷たくなった手をタオルで拭い、ソファに腰掛ける蒼生くんの隣に座る。


心地いいような、優しい雨音を耳に、何気なく口にする。


「……もう、梅雨だね。」

「……うん。」


言ってから、わたしが紫陽花から連想したのと同じように、この発言で蒼生くんの中の1年前の記憶が強くなってしまうんじゃないかと思った。


頷いた蒼生くんの顔を覗き込もうとしたけれど、わたしはそれを躊躇った。


……きっと、わたしと同じように、去年のことを思い出して、寂しい顔をしている。


わたしは、それを見るのが怖かった。


1年経った今も、蒼生くんの中には……。


「……寧々ちゃん。」

「ん?」


不意に名前を呼ばれて、目線は自分の手元に向けたまま応える。


「こっち、向いて。」


そう言われて、渋々傷付くことを覚悟しながら右隣に目を向けると、……わたしの視界は、一気にぼやけてしまった。


その代わりに、唇に、柔らかな感触が当たった。


「ほんと、……不意打ち弱いよね。」


重なっていた唇を離すと、ほんのり顔を赤くしたわたしを見て、蒼生くんはいたずらっぽく微笑んだ。