「ごめんね、菜々ってば朝霧くんにべったりで。自分の勉強全然できてないでしょ。」


図書館のエントランスに立ち並ぶ自動販売機の前で、飲み物を選びながら、さっきの菜々の様子を浮かべ、わたしは苦笑する。


……モテる朝霧くんのことだから、あれくらいのことを躱すのなんて、簡単だと思うんだけれど。


「ああ、別に平気だよ。教えることで自分の勉強にもなるし、それに、……」


朝霧くんの言葉が途切れたところで、後ろの自動販売機から、ガコン、と商品が落ちる音がした。


「それに?」


続きが気になって、背中合わせになっていた身体を捩ると、いたずらっぽい微笑みが見えて、


「いいところ、見せなくちゃね。」


頬に、冷たい缶が当てられた。


「いつもミルクティー飲んでたよね。塾で。……寧々ちゃんって呼んでいい?」


しばらく思考停止していた頭を無理矢理働かせて、やっと出たのは、あ、と情けない声だった。


先程2人で机を離れた時の、菜々の不服そうな顔を思い浮かべる。


ここで寧々ちゃんなんて呼ばせていたら、菜々に殺されちゃいそうな勢いだ。


「……だめかな、小日向じゃ2人居るし、ややこしいかと思って。」


朝霧くんが眉をハの字にして悲しげな顔をする。


……そんな表情さえも見とれてしまうほど素敵なこの人に、逆らうなんてこと、わたしには出来なかった。