「小日向、……Aクラスだからって意気がってたら、本気を出した孝輔サマが一瞬で抜かしてやるからな。」


じっとりとわたしを睨んだ孝輔は、おどけではなく本気の顔で言うものだから、わたしはつい笑いを零す。


「ばっかじゃないの、無理に決まってるでしょ。望月の分際で。て言うか、あたしがお姉ちゃんに教えてもらって天才になるもんねーっ。」

「あっせこ!」


この2人は仲が悪いのか、今度はまた別のケンカが始まってしまい、わたしは大きなため息をついた。


すると背後から、くすくすと笑う声が聞こえた。


「楽しそうだね。」


振り向くと、細身で長身の彼の身体が見え、わたしは見上げる形で端正な顔を目に入れる。


「朝霧くん……。」


そこに立っていたのは、同じAクラスの、朝霧 兆(あさぎり きざし)くんだった。


朝霧くんに気が付いた菜々が、孝輔との喧嘩をやめて、すぐに朝霧くんの元へ駆け寄る。


そして頬をピンク色に染めて、もじもじとした動きをしながら、少し上ずった声で言った。


「あ、朝霧くん、い、今から図書館で勉強するんだけど、一緒にだめかな?数学とか、教えて欲しいし……。」