真っ暗な部屋で、蒼生くんは苦しそうに囁く。


「菜々……。」


いつもは固く閉じられて見えない鳶色の瞳が、今はしっかりと開かれていて、愛おしそうにわたしを映した。


……それは、わたしを菜々だと思っているから。


いつもは現実から目を逸らすように、ただわたしの熱に縋るように、蒼生くんはわたしと身体を重ねる。


だけどいつもと反対に、今度はわたしが固く目を閉じて、現実から目を背けた。


蒼生くんの首に手を回し、柔らかな髪を撫でる。


蒼生くんの身体が熱い、……そして、わたしも。


じっと目を閉じていると、その熱が溶け込んで、……肌と肌の境目がわからなくなった。


「……菜々。」


蒼生くんがそう優しく囁く度に、わたしの胸はずっしりと傷む。


……なんでわたしは、こんなにも痛いのに今でもこの人を、……この人を手放せずにいるんだろう。


どうしてあの時、代わりでもいいなんて……。


菜々が居なくなって、……もう1年。


わたしも蒼生くんも、その現実という深い哀しみから、ずっと抜け出せずにいた。