……何が起こったのか、分からなかった。

それはいつもの日常の中の、いつもと同じ朝であるはずだった。

いつも通りの時間に登校してきて、いつもと同じ、途中で美緒ちゃんが合流してくるはず。

私はいつもと同じ、東条くんの姿を見つけて、そこにきっと女の子が嬉しそうに走り寄っていく。


いつも通りの、日常が。


ふと顔を向けた先で、東条くんが何故かこちらを振り返って。

き、気のせい気のせい。って。

見ていたのがばれないように顔を逸らそうとしたら、東条くんがこちらに向かって歩いてきていて。


目線がじっとこちらを見ている気がして、その表情がとても真剣に見えて。


何故か気持ちが焦って、早歩きで歩き始めようとした視界の隅で、「隼人じゃん、おはよー!」「どうしたの?」って、声をかけて寄ってくる女の子を、

東条くんが「ごめん、」って片手で制するのが見えて。



「…山本さん」



はっと気付いた時には、そこにいた。



「………」



何がなんだか分からなくて、歩いていた中途半端な体勢で固まってしまった私は、体を東条くんに向けることもできなくて。

ただすぐそばに東条くんがいて、東条くんが呼ぶ「山本さん」が私しかいないってことは分かったから。

あからさまに戸惑いながら顔を、おそるおそるあげると、真剣な表情でこちらを見下ろす東条くんと、その周りで私と同じく戸惑いながらこちらを観察する人たちの姿が見えた。