冷めてしまった朝ごはんを食べた後、私の言い訳タイムが始まった。

「妹の名前は『さち』といいます。幸福の幸で、さち。明日、青木君と中島君が見に行く映画の原作者です」

「すごい妹だねぇ」

「年下が優秀なんて、憎らしい…」

中島君が何の気なしに褒める横で、アキ君が恨めしそうな顔をする。

アキ君と私は、境遇が似ているから。
同じ漢字の名前で、下が優秀。
違うのは、下から慕われているか、そうでないか。

「私に才能がないから、羨むのはお門違いって、頭ではわかってるつもりではありますが、どうしても、ね。……劣等感というものがふつふつと湧いて出るわけですよ」

アキ君が、私の気持ちを代弁してくれたから、少し冷静になれる。

「昔は、仲の良い姉妹だったと思います。一緒に小説書いて、サイトに投稿して。同じモチーフの話を書こうって話したこともありました」

結局、私は完成させる事ができませんでしたが。

「それからしばらくして頭角を現した妹は、次々と作品を発表し、書籍化。女子中高生に大人気な爆売れケータイ小説家となりました。親は自慢の娘を得て大喜び。周りの人達は大人気ケータイ小説家の親友というステータスを得たんです。私に声をかけてくるのは、そんな妹と繋いで欲しいという人ばかり」

……まぁ、当たり前なんですけど。
価値の無い私なんて、それくらいしか役に立たない。

もちろん、毎回会わせられるはずはなく。

「妹に会わせなかったら、色々陰口をいただきまして、悪い噂も広がり、普通に話せる友達と呼べる人がいなくなりました……。殴られたり、物隠されたりとかがなかっただけマシなんですがね」

「会いたいなら、直接本人の所に行けばいいのに」

ほんと、それですよね。

さすがアキ君はわかってらっしゃる。

「いきなり来られても邪魔なだけ。相手にするわけない」

妹は、辛辣なシュウ君と同じ意見だったのでしょうか。

だから、私に人が流れてきたのかもしれない。

「そんなこんなで、私は家から逃げ出して、遠く離れたここに来たわけです」

この話はこれでおしまいと、ひとつ手を叩いた。

「というわけで、さっき妹から押し付けられたやつです。差し上げます」

「どーも……」

時々殴られて、ちょっとボロくなっている中島君にチケットを快く受け取ってもらえて、私は満足した。

顔のいい彼なら、うまくやってくれるだろう。

「青木君と、よければどうぞ」

「妹が悪いって言って回ればよいのでござるな、心得た」

「りおちゃん、それちょっと違う…」

「概ね間違ってない」

「ゆきちゃん!?」

私は青木君と、ガシッと固い握手を交わした。

「相手は口の上手い人たちだから、くれぐれもお気をつけて」

「任せろ。いざとなったら泣き落としてやる」

そういえば、青木君は美少女顔であった。
顔のいいふたりなら、きっと周りも甘くなる。

ぐへぐへと笑い合っていると、ずっと黙っていた北山君が口を開いた。