北山君はボウル入り納豆をちゃぶ台に置き、台所から折り紙サイズの海苔、カニカマ、きゅうりなどの具、寿司飯を運んできた。

「北山さん、塩撒きますよ、塩」

「また3袋ばら撒くつもりかよ。近所迷惑だから、盛り塩にしましょう。用意してありますから」

「流石は北山さんですね。仕事が早い」

不気味な笑い声を発した大家さんに従うように、北山君は盛り塩両手に居間を出ていった。

大家さんの姿が見えなくなったことで、場の緊張が解けた。

「とんだ小者じゃないですか。納豆ひとつに情けない」

「いやこれ何パック使ってるの?」

「納豆巻き大量に作れるね」

「兄さんの分はボクが作ってあげる」

青木君、中島君、双子がいつもの調子を取り戻す。

「にしても、何しにきたんだろうねぇ」

「愛しの大家さんに会いに来たに決まっているではありませんか!」

中島君の疑問に、青木君が鼻息荒く答えた。

「好きなくせに素直になれなくて、ついつい突っかかっちゃう。本当は嬉しいのに、どうしてあんなことしてしまったんだろうか……。と、陰で落ち込んでいるんだよ! ツンデレ大家さん最高か!」

「すごい! 青木君よく知ってるね」

アキ君が拍手で褒める。

「でもまさか、大家さんの相手が風紀委員長だったとは………。むしろなんで今まで思い当たらなかったのか不覚であります。風紀委員長かける生徒会長なんて、王道の中の王道ではありませんか!」

「納豆嫌いは情けないんじゃなかった?」

シュウ君が不機嫌そうに言う。

青木君は眼鏡を光らせ、拳を突き上げた。

「むふふ! 納豆ごとき、愛の力でどうとでもなります。もしくは、わざと嫌いなふりをして見逃していたのかもしれません。妄想が捗りますな!」

ほんと、青木君の妄想力はたくましい。

「むふふ、クフフフ……」

不気味な笑い声をこぼす青木君の背後に、和装の麗人が立つ。

「青木さん、あなたの部屋にある宝物たち、学校の掲示板に貼り付けますよ?」

どこから聞いていたのか、大家さんは般若を降臨なされていた。

「ややっ、僕のBL本コレクションを宣伝いただけるのでありますか有り難う御座います!」

「18禁のモノもあるのでしょう?」

「ゴメンナサイ」

青木君は冷や汗たらたらで、流れるように美しい土下座を披露した。

さすがに18禁はまずい。

大家さんの職権濫用だと思いながらも、有言実行されるのが怖くて逆らえない。

しばらくして、大家さんは天女の微笑みを見せた。

「さあ、お昼ご飯にしましょうか」

「はいっ!」

我々住人の声が揃った。

これ以上、大家さんを怒らせてなるものか。












大家静流という人物は、外面天女、時々般若、時にはツンデレ。

私たち風花寮の住人をとても大切に思ってくださる保護者です。