祭りの翌日、約束したわけではないけど皆、居間に集まり、宿題を広げていた。

初めは私が青木君に教えてもらってたところに、中島君が乱入。

中島君の相手で忙しくなった青木君に聞けず、成績の悪い私が頭を痛めていると北山君が助けてくれて。

通りかかったアキ君が控えめに仲間に入れてと言ったので迷わず了承。

もちろんシュウ君もついてきて、大家さんも洗い物の後ご一緒して、全員集合だ。

各場所で小競り合いもあったが、いつものことなので割愛しておこう。

「……さて、お昼ご飯の時間ですし、そろそろ片付けましょうか」

シュウ君との舌戦で勝利を収めたばかりの大家さんの一声で、この勉強会はひとまずの解散となる。

私の宿題は捗った。

シュウ君を引きつけてくれた大家さんのおかげで、アキ君の宿題も捗っただろう。

私達に教えてくれていた北山君はほとんど進んでいない。

申し訳ないと思っていると。

「気にすんな。よく頑張ったな」

と、頭を撫でて、言ってくれた。

なんだか、むずがゆくなる。

「アンタのせいで僕の宿題、ひとつも進んでないじゃないか!」

「オレとお揃いだねー」

「嬉しくないよ! 離せっ、このっ!」

青木君が中島君に掴みかかるが、その腕ごと中島君の腕の中に収められた。

逃れようともがいているが、びくともしない。

「兄さんに勉強教えてあげられなくてごめんね。大家が邪魔したせいで……」

シュウ君がアキ君を後ろから抱きしめる。

首筋の匂いをかぎながら、頭をこすりつけるシュウ君を、アキ君は笑いながら受け入れている。

ここだけ切り取って見れば、仲良し兄弟だ。

「ボクは福井さんと一緒に、北山君に教えてもらってたから大丈夫だよ」

アキ君がそう言った瞬間、シュウ君の鋭い目に睨まれる。

間に入った北山君が、その視線を遮ってくれて、知らず止めていた息を吐き出した。

「シュウ、何してるの。福井さんが怖がってる」

「だって兄さんに色目使った」

「シュウはその色眼鏡を外して。福井さんは、ボクの、と………ともだち、だから」

「兄さん、何でそこで赤くなるの!?」

「うるさいっ!」

北山君の後ろから顔を出すと、アキ君がシュウ君に肘鉄をいれたところだった。

アキ君は変わった。

初めの頃なんて、何も言い返せなかったのに、今では喧嘩もする普通の兄弟のようだ。

「……ぅぅっ………」

鳩尾を抑え、倒れるシュウ君。

アキ君はそれを満足そうに見ていたが、いつまでも苦悶の表情が崩れないシュウ君に、やがて心配が勝った。

「ご、ごめんなさい。……大丈夫?」

そっと手を伸ばすと。

「っ!」

手首を掴まれ、ぐるりと体勢を入れ替えられた。

両手首を顔の横に押さえつけられたアキ君は、何が起きたのか分からず呆然としている。

それを見下ろすシュウ君の悪い笑顔。

ニタリという効果音が聞こえた。

「兄さん、だめじゃないか。こんなに簡単に騙されて」

「離して!」

足の付け根も膝で押さえられて、抵抗ができないようだ。

代わりに、キッ、とシュウ君を睨みつけているのだろうが、小動物の威嚇ほどもない。

見つめるシュウ君の甘い顔が降りていき、鼻先が触れるかという瞬間。

「不純異性交遊は禁止だぞ」

居間の入り口から声がした。

居間にいる皆の視線がそこに集まる。

ぽかんと見上げる園田双子を見下ろす彼は、しばらくして、白い歯を光らせた。

「すまない、男同士だったか。ならいいぞ」

「同志……!」

青木君がキラキラした目を彼に向けていた。

「何しに来たんですか、また勝手にあがりこんで」

料理中の大家さんは包丁片手に居間に来た。

スイカでも切っていたのか、赤い汁が滴る。

「よぉ、静流。相変わらず美人だな」

「茶化すな。何しに来たと訊いているんです」

「幼馴染にそんな言い方ないだろ」

「黙りなさい。今の貴方は不法侵入者です」

すっ、と包丁を正面に構える。

刃先を向けられた彼、風紀委員長は隙なく両手を上げた。

「遊びに来ただけだろ。そんな警戒すんなよ。せっかくの美人が台無しだぜ?」

「これまでの己が行いを振り返ってみては?」

反省する気のない風紀委員長に、大家さんの包丁が迫る。

「傷つける気ないくせに、そんなもん、振り回すなよ」

言うと、大家さんの包丁を持った方の手首を捻り上げ、バランスを崩した背に腕を回し、噛み付くようにキスをした。

「きゃーーーーっ!」

青木君の自重しない悲鳴と共に、滑り落ちた包丁が畳に刺さった。