「大家会長!」
「違うの!」
「何が違うと言うんです」
「これは、全部誤解で」
「誤解? 払わせていたのは事実では?」
「返す! 返しますから!」
女子グループは、それぞれの巾着を漁り、札を数枚渡して来た。
「ほら、これでいいでしょ」
北山君が攫うように受け取り、数える。
「1枚たりねぇ」
鋭い眼光のおまけ付きだ。
「っも、もうっ! これでいいでしょ!」
「……たしかに」
「ふんっ!」
「まってよー」
「おいてかないでー」
女子グループリーダーが逃げ出して、メンバーがそれを追う。
人混みにまぎれて、すぐに見えなくなった。
「………皆さん、ありがとうございました」
「福井氏、人を見る目がなさすぎですぞ!」
「ゆきちゃんばかだねぇ」
「うっ………」
「気持ち、わかるよ」
「兄さんの友達はボクが選ぶから安心して」
青木君に呆れられ、中島君にばかにされ、アキ君には同情され、シュウ君のブラコンは健在。
居た堪れなくなっていると、北山君が頭を撫でてくれた。
「ん」
「ありがとうございます」
次いで、女子グループから取り返したお金を渡されたので、大切に財布にしまう。
「福井さん」
「……大家さん、すみません。ご迷惑を……」
「いいんです。店子を守るのも大家の務めですから」
「心配で、みんなでついて来たのですよ」
「もともと、祭りは風花寮のみんなで来るつもりだったからねぇ」
「こいつらを野放しにできないからだ。危なすぎる」
ため息混じりに言う北山君に、苦労が見える。
彼の視線の先、チャラ男と双子弟が問題を起こす場面が容易に想像ついた。
「……今はお前がいちばん危ない」
頭をぽんぽんとたたかれて。
ああ、今、本当に危なかったのだと自覚した。
「友達はちゃんと選べよ」
「あ、風紀委員長」
忘れかけていた。
「風紀委員長にも、お世話になりました」
「おう。今後は気をつけろよ」
風紀委員長は背中を向けて手を振って、人混みに消えていった。
「さて。仕切り直しといきましょう」
大家さんの号令に、私たちは元気よくうなずいた。
場の空気を切り替えるごとく予告花火が鳴る。
「あそこのかき氷屋、シロップいっぱい」
「兄さん、何味にする?」
「おや? あのベビーカステラ、某人気アニメのマスコットキャラでは!?」
「りおちゃん、買いに行こう!」
「あいつら、早速別行動しやがった……」
「集合場所は伝えていますから、平気ですよ。私たちも買いに行きましょう」
「そうだな。ゆき、何が食べたい?」
「えっと………」
周りを見ると、ちょうど空いている屋台があった。
「カレー……」
「カレーですね。行ってきます」
「大家さん、私が……」
「いいんですよ、そこで北山さんと待っていてください」
大家さんは流れるように踵を返し、カレー屋台に行った。
「大家さんをぱしらせてしまった……」
「大家さんの気遣いだ。ありがたく受け取っておけ」
そんなものでしょうか……?
首を傾げていると、大家さんが戻ってきた。
早い。
「ありがとうございます、えっと、お金………」
「いいんですよ、私の奢りです」
「さっき、金銭のやり取りは禁止って……」
「私はいいんです。保護者ですから」
「でも……」
「お隣の屋台で買ってきたクッキーもどうぞ」
「…ありがとうございます………」
ああ、気を使わせてしまっているな。
クラスメートと祭りに行くって、あんなに喜んでいたのに、こんな事になったから。
ありがたいのと申し訳ないのとがぐちゃぐちゃで、複雑な気持ちになる。
「ややっ、福井氏いかがなされた!」
「福井さん、大丈夫?」
落ち込んでいるのが見えたのか、青木君とアキ君が駆け寄ってくる。
その後ろからは中島君とシュウ君が不機嫌そうについてきていた。
「いえ、なんでも……」
「このキュートなネコさんクッキーが悪いのですな!」
「ネコさん呼びするりおちゃんかわいい……。てか、どう見てもピンクカレーが原因でしょ」
うげっ、と不味そうな顔をする中島君。
「ネコさん食べるの、かわいそう……」
「ネコさんクッキーを頬張る兄さん、かわいいに決まってる」
シュウ君はクッキー売り場に走っていった。
「ふふっ……」
いつも通りのみんなに思わず吹き出してしまう。
ああ、今、とても幸せだなぁ。