指定された駅前には、30分前には着いた。
流石は待ち合わせの定番。
屋台は開店しているし、人がなかなかに多い。
目的地は皆同じらしく、浴衣を着ている人がほとんどだ。
待っている間に脳内シミュレーションを開始。
『福井さんお待たせ』
『大丈夫。今来たところだから』
『じゃぁ早速行きましょう』
出だしはこんなものでしょう。
「福井さんどこいんのよ」
「もしかして遅刻とか?」
「向こうから言っておいてありえないんですけど」
私の同行する女子グループの声が聞こえた。
振り返り、慣れない下駄で小走りした。
「あのっ、ここにいます」
「こんなところにいたの。地味でわかんなかったじゃん」
「ただでさえ埋もれるんだから、浴衣とか着てくんじゃないわよ。探すのマジめんどい」
「それくらい気付いてほしいもんだわ」
「ご………ごめんなさい……」
脳内シミュレーション、出だしから大はずれ。
なんてこったい。
みんなが着るからって浴衣を選ぶべきではなかったようです。
確かに、制服を着てないと誰かわからない事ってよくありますよね。
私もそうです。
「早速出店見ていきましょ」
「いこいこー」
「何が出てるかなー」
「楽しみだねー」
女子グループが横並びする後ろを小さくなってついていく。
せっかくのチャンスなんだから、怒らせないようにしないと。
「あ、たこ焼き売ってる」
「やっぱり、祭りといえばたこ焼きだよねー」
「福井さん、たこ焼き人数分。買ってきて」
「うん、わかった」
振り向いてお願いされたので、私はたこ焼きの列に並ぶ。
早く進んだのですぐに注文できた。
少し離れたところに女子グループを見つけたので合流する。
「お待たせ」
「遅い」
「もうお腹ぺこぺこー」
奪うようにたこ焼きを取っていかれた。
そして、食べるなりひとこと。
「なにこれ、冷めてるんだけど」
「それになんか粉っぽい」
「なにハズレ買ってきてんの?」
「ご、ごめん」
「あーあ。がっかり。早く口直しにいこー」
彼女たちはひとつ口にしただけのたこ焼きをゴミ箱に投げつけて、歩き出した。
私はあわてて、自分の分のたこ焼きを口に入れる。
屋台のたこ焼きだもの。
作り置きして冷めているのもあれば、粉っぽいのも当たり前。
そういうものだとおもうのだけど。
彼女達はどんなにいいたこ焼きばかりを食べてきたのでしょう。
その後も。
「なにこれ、かき氷の氷が削れてないんだけど」
「リンゴ飴ちっさ!」
「このたこ焼きタコ入ってない!」
などなど。
私の買ったものに文句しか言わない。
「福井さん、次はあそこの…」
といいますか、いい加減。
「すみません、お金、払ってもらえませんか?」
最初の屋台からずっと私が払っているので、もう、財布の中身が無いんですよ。
「はぁ? 何言ってんの?」
「何のためにあんた連れて来てると思ってんの?」
「あんたは黙って金出せばいいの」
「あ、もしかして、ウチらと対等だと思ってる?」
「……………」
「期待しちゃった?」
「そんなわけないじゃん! ねぇ」
「………っ………………」
「友達料ってことで。ウチらと一緒にいたいんでしょ? これくらい払ってよ?」
いつのまにか下がり切っていた視線。
嫌だ、誰か助けて。
巾着の紐を握りしめた瞬間。
「学生同士の金銭のやり取りは校則で禁止されてるって言ったよな」
隣から男の声が聞こえてきた。
見ると、高校の制服に、風紀の腕章。
終業式の舞台で見たこの顔は、風紀委員長だ。
「こいつが奢ってくれるっていってたし」
「そーそー。ウチら、友達なんでー」
媚を売るような声色。
よくもまあ、いけしゃあしゃあと。
「後々のトラブルに巻き込まれないためにも、ルールは守ってもらわないと」
「この根暗に、言いふらす勇気なんてねぇよ」
説明をする風紀委員長の陰で、吐き捨てる女子グループリーダー。
……素がでてますよ。
「奢る、とは、一言も言ってなかったな」
「立て替えた分の請求をしようとしてましたね」
「一緒に行動してるんだから、友達料払えって言ってたねぇ」
「せっかく買ったたこ焼き捨ててたよね。もったいない」
「黙って金だけ出せって、脅迫かよ」
後ろから6人の聞き慣れた声がして、振り向くと。
「私たちが証人です」
真剣な表情の大家さん率いる、風花寮の皆さんだった。


