ホームルームが終わると、今日は帰って、明日終業式、夏休みとなる。

掃除が終わったら、とっとと終業式して夏休みに入れば良いのに。
と、ぶつくさ言いながら教室を出て行く生徒たちには悪いが、私は良かったと思ってる。
遊ぶ約束を取り付けられていないからだ。

寮に帰ると、まず本棚に手を伸ばす。
読むのはもちろん『さち。』のケータイ小説。
遊びの約束を取り付けるシーンを探す。

『ねぇねぇ、遊園地行かない?』

『いいねーいつ行く?』

『明後日! 明日はみんなで着て行くおそろいの服買いに行こうよ』

『よし決まり!』

『まなちゃんも行くよね?』

『ぇ、わたしが行ってもいいの?』

『いいに決まってんじゃん! アタシらまなちゃんと友達になりたかったんだ』

主人公のまなちゃんは遊びに行く場所が決まったところに誘われているので、明日は行き先の決まったグループに声をかけよう。
待っていたって、私に声をかけてくれる人なんていないんだから。




翌日の終業式は、壇上に上がる生徒会長大家さんの挨拶に女子の歓声があがる。
大家さんすごい。
風紀委員長の挨拶、その他もろもろのありがたいお言葉たちがあったはずだけど、これからの緊張で耳に残らない。

気付いたら教室に戻っていて、成績表を配られたところだった。
『福井幸』と私の名前の書かれた成績表。
おそるおそる中身を開くと、ギリギリ及第点だった。

っしゃ! 夏休みの補習回避。

教師がいなくなり、あとは帰るだけとなった時、ちょうど後ろの席に女子が集まってきた。

「今日の祭りなんだけどー」

「とりあえず4時半集合でいい?」

「いいよー。みんなで浴衣着て行こっ」

脳内シミュレーションは完璧。
祭りに行こうと話す女子グループに狙いを定める。

「私も一緒に行って良いかな?」

慣れない笑顔を作り声をかけると、彼女達は顔を見合わせた後、リーダーぽい人がにぱっと笑う。

「いいよー。一緒いこー」

「ありがとう」

「4時半に駅前ねー」

「わかった」

「じゃ、またねー」

女子グループはカバンを持ってキャッキャと教室を出て行った。
それを手を振り見送って、姿が見えなくなって2秒。
拳を突き上げた。

やった! 一歩前進!

スキップで帰路につき、風花寮の玄関を開く。

「ただいまーっ」

靴を脱ぎ、廊下を跳ねる。

「おかえり。やけにご機嫌だな」

居間の前を通るところで、北山君が顔を出した。

「はいっ! 今日、クラスメートと祭りに行くんです!」

「そうか」

「そうなんです! みんな、浴衣着て行くみたいなんですけど、私持ってないし、どうしようかな……」

「ありますよ、浴衣」

「大家さん!」

炊事場に、長髪を首の後ろでひとつにまとめた着流し美人の後ろ姿がある。

「お昼ご飯を食べ終わってから持ってきますね。気にいる柄かはわかりませんが」

「いえいえ、お世話になります」

「あ、北山さんの分もありますよ」

「俺は別に………」

「まあまあ、遠慮なさらずに」

「………」

北山君は渋い顔をしていたが、満更でもなさそうだった。