廊下を歩いていると、ゴミ箱抱えて外に行く生徒を見つけた。

「次は、ゴミ捨て場を見に行きましょうか」

「はい」

ゴミ箱を持つ生徒についていくと、ゴミ捨て場に向かって等間隔の列が出来ている。
彼らの横を抜けて、先頭を確認すると、眼光鋭い不良が腕組み仁王立ちして、部下らしき生徒に指示を飛ばしていた。

ゴミ箱持つ生徒が萎縮するなか、大家さんは涼しい顔で不良に話しかける。

「北山さん、調子はいかがですか」

「順調ですよ。大家さんこそ、見回りお疲れ様です」

北山君はこちらに視線を寄越し、腕をほどく。

眼光が少し和らいだ。

「なんだ、ゆきも来たのか」

「あ、はい」

「大家さんの手伝いか? えらいな」

ぽんぽんと頭を撫でられて、居心地が悪くなる。

そんないいものではないんですよ。
私なんて、クラスメートに嫌われたゴミクズで、焼却炉に投げられても仕方ない奴なんですよ。

「おいそこ! ペットボトルを燃やすゴミに入れるな!」

「ご、ごめんなさい!」

ペットボトルですら燃やされないのに。

「ペットボトルは資源リサイクルだ。キャップとラベル剥がして中を洗ってリサイクルに出せ」

「はいぃっ! 今すぐ!」

裸に剥かれて砕かれ溶かされる運命ですか。
生まれ変わって、また誰かの役に立つ。
素晴らしいではありませんか。
私なんて、救われることもない、疎まれる埃だもの。
せいぜい、ゴキの餌になってゴキを増やすことくらいしか取り柄がないもの。
どこまでいっても迷惑でしかなくて。

「北山さんがいきなり大声出すから、福井さんびっくりしてるじゃないですか」

「すまん、悪かったな」

「……いいえ………」

びっくりして無言なのでなく、自己嫌悪なのですが、説明も面倒なのでそういうことでいいや。

「改めまして、ここでゴミ捨て場の番人をしている北山貴伊智さんです」

「番人……」

「ただの監視だ。さっきみたいに分別しない奴がいるからな。あと、サボり場所になりやすい」

「へー」

「そしてなんと、北山さんは美化委員長なんですよ」

「すごい……」

「余り物だよ。決まらないと帰れねぇから、仕方なく引き受けただけだ」

「……勘違いされやすいですが、彼、こんな顔して、とってもお優しいんですよ」

「知ってます」

「…………」

私、いつも助けられてます。
だから、北山君がとっても優しいこと、よくわかります。

「流石は私の子ですね」

大家さんは花開くように微笑んだ。

私はもちろんとばかりに微笑み返すが、北山君は呆れたように息を吐く。

「実の子じゃないだろ……」

「北山さん、それ何回目ですか。………風花寮の皆は、誰が何と言おうと私の子供たちです。もちろん、北山さんも」

「………恥ずい………」

顔を背ける北山君の耳は赤い。

確信犯だ。
大家さん、照れてる北山君を見て楽しんでる。

「では、私達は次の約束がありますので、もう行きますね」

「……とっとと行け」

「また、寮で」

「ああ」

大家さんが校舎へ歩き出したので、私は北山君に一礼して、大家さんの後を追う。











先の宣言通り、視聴覚室の再チェック。

中島君率いる掃除メンバーが見守る中、大家さんの目が光る。
教室を一周して、出入口に戻ったところで、ひとつ頷いた。

「………ふむ、合格で良いでしょう」

「っしゃ!」

「やったー!」

「いえぇい!」

大家さんの一言に彼らの緊張が解き放たれた。
雄叫びをあげ、ハイタッチして。
それぞれが勝利を喜んでいる。

「そんじゃ、約束通り、りおちゃんのところに……」

中島君のスキップの一歩目と同時に、チャイムがなった。
掃除時間終了のお知らせだ。

「あ、時間ですね。お疲れ様でした。寄り道せずに、教室に帰ってくださいね」

「騙したなクソ大家!」

「何のことでしょう」

中島君の追及をさらりとかわし、視聴覚室を出る。
扉を閉めれば、中島君の罵詈雑言も聞こえて来ない。

「福井さん、手伝いありがとうございました」

「いいえ、こちらこそありがとうございました」

たとえお飾りでも仕事を与えていただいて、感謝しています。

「普段は見れないお兄さんたちの姿は新鮮で、楽しかったでしょう?」

風花寮では、私が最後の入寮者だったから、先にいた皆は、お兄さん、ということになる。

いつも青木君の尻を追っかけている中島君は、見事にクラスメートを指揮していた。
おどおどしてたアキ君は、無自覚に周りを仲良しにさせる。
優しい北山君は、やっぱり優しくて、真面目な人だった。

普段と変わらない人もいたけれど、自身の仕事を全うしていたことに変わりはない。

「…はい。皆さん、かっこよかったです」

「そんな素敵な人たちが味方なんです。福井さん……ゆきさんも、自信を持ってください」

彼らのそばに居たら、私も変われる気がする。
そんな勇気をもらえるひとときだった。

「はい。大家さん、今日は本当にありがとうございました」

「どういたしまして」

「私、諦めかけてた友達づくり、頑張ります!」

宣言して、教室への一歩を強く踏み出した。