「…………ボク、は……」

アキ君は、下を向きながらも、ぽつぽつと話し出す。

「皆さんに、お気遣いいただいて、とても、嬉しく思っています」

彼の、膝の上に押しつけた両の拳は真っ白だ。

「ここ数日、シュウの束縛から解放された生活をしました。初めのうちは、解放されたって思いました。……だけど、日が経つごとに、なんだか、こう………寂しかったんです。…あんなに嫌だったはずなのに………」

それってもしかしなくても両想い、と言う青木君の口を北山君が片手で塞いだ。

「たった二人の兄弟だから、かな。情を捨てきれないところもあるんだと思う…………。だから、これからも関わっていきたい。……そう、思っています」

やり切ったとばかりに顔を上げ、表情を崩すアキ君のそれは、困ったようでもあり、見たことのないほどに晴れやかなものだった。

「なんだかんだ言っても、こんなのでも、弟、可愛いもん。仕方ないよ」

「兄さん……」

私達もアキ君につられて頬が緩んだ。

「兄さんの許しが出たってことは、兄さん解禁でいいよね。早速部屋の移動と…」

「許しません。また同じことを繰り返すつもりですか?」

暴走一歩手前のシュウ君を止める大家さん。
2人の間に火花が散った気がした。

「またボクと兄さんの邪魔をするの?」

「風花寮の風紀の為です」

「せっかく引き離したのに、和解するなんて想定外でした。兄といられない怒りや寂しさを私に集めて、ゆくゆくは私のものにするつもりでしたのに。作戦を変える必要がありますね。ですが今は、シュウさんがアキさんと同室に戻ることだけは阻止しなければなりません。なに、チャンスはこれからいくらでもありますから…………。…はぅっ。大家さん×双子弟……良い………」

「りおちゃん、声に出てる」

「はっ! しまった!」

「青木さん、部屋にある薔薇本全て捨てますよ」

「ひどい! 鬼! 鬼畜! 悪魔!」

「自室で寝ることの強制はしていません。お泊まりにしなさい」

「ほんと? りおちゃんと一緒の布団に……」

「お断りだ!」

「兄さん、一緒に寝よう!」

「うんっ!」

「不純同性交遊は認めていませんからね」

ここで、異性ならいいのかとツッコミを入れる者はいない。

「あくまで健全に、ですよ」

大家さんの綺麗な微笑みとともに、どうやら大団円を迎えそうです。

隣の北山君に笑いかけられたので笑い返すと、彼は両手を胸の高さに上げたので、それに両掌を合わせ嬉しさを分かち合う。
指をからませ、上下に振った。
しばらくそうしていると、どちらともなく笑い声がもれた。







結局のところ、互いが互いを大好きな双子。

手負いの兄と暴走しがちな過保護な弟。



園田秋という人物は、これからちょっとずつ互いの理解を深めていく。