大家さんの宣言通り、夕飯の後、住人が集められた。

たぶん、男子トイレ事件についての話があると思うんだけど、大家さん、どう説明する気ですか。
不安な眼差しを大家さんに向けると、微笑まれた。

「今年から、福井さんが入寮することになり、男ばかりではなくなりました。不便に思うことなどあるでしょう。そこで、皆さんの不満を聞かせていただけませんか?」

まずは青木さんから。
と大家さんが促すと、青木君は少し考えるそぶりをみせてから口を開く。

「僕は部屋に鍵が欲しいかな。もちろん、みんなを信用していないわけじゃないけど………」

むしろ集団生活をする中で、個室に鍵がないことに問題があった。
男所帯であったなら、特に気にすることもなく。
金庫があるので、特に心配はなくやって行けてたのだろう。

「……時々物がなくなるんだ」

「オレのりおちゃんの物を、ボク以外が盗っていくなんて、許せないなぁ」

「……かと思えば、見覚えのないものが置いてあることもある」

「プレゼント!? プレゼントなの、りおちゃん!」

青木君の言葉に合いの手を入れる中島君、やかましい。

「…………待ち伏せされてる時もあるし」

「初耳だよりおちゃん、大丈夫だった!?」

「やっぱり犯人はお前かァ!」

「何言ってんのさ、オレはりおちゃんの味方だよ」

「ほぅ? 待ち伏せした当人の言うことを信じろと? 盗っていったのお前だろう! 返せ! 僕の下着!」

「代わりにオレのを置いていったじゃん」

「使用済みをな!」

「オレの今履いてるパンツはりおちゃんの使用済みだよ? 使用済みをお互い履くんだからおあいこだよねー」

「僕はお前のなんて履いてない!」

「もぅ、遠慮しなくて良いのにぃ」

「ふざけるな! 十分自白がとれたと受け取っていいですよね。大家さん! この人きつく叱ってください!」

ちゃぶ台を叩き、中島君を指差す青木君の主張に、大家さんは般若の笑みを見せた。

「中島さん、後で私とお話ししましょう。青木さん、個室の鍵、検討しますね」

「は……はぁ〜い」

「ぜひ、色良い返事をお待ちしてます」

明らかに勢いの落ちた中島君に、青木君は眼鏡を輝かせた。

「……青木には悪いが、開けていることでの安全性というものもあると思うんだが、どうだろう」

北山君の意見に、大家さんと青木君が唸る。

「確かに。鍵があるから安全とは限りませんね」

「この変態はいつのまにか合鍵を作ってそうです」

「りおちゃんの安全はオレが守るよ」

「犯人が何言ってんだよ!」

遠慮のない青木君の言葉であるが、中島君は真剣な顔を崩さない。

「ボクは心配なんだ。愛らしいりおちゃんが他の男に襲われやしないか……」

「心配する相手が違うんですよ! 愛らしいのは双子兄でしょう!」

「りおちゃんの方が数百倍かわいい」

「ちょっと、兄さんがかわいくないって言いたいの?」

「りおちゃんの方が数千倍かわいい」

「兄さんの方が数億倍かわいいに決まってる」

「腕のいい眼科はどこですかー」

半目の青木君がツッコミを入れる。

「りおちゃんがかわいいのは事実!」

「兄さんが一番かわいいのが事実!」

「自分の想い人が一番かわいいですよねわかります! ハァハァ………」

混沌が増してきた。
やいのやいの言い合う3人。

「あの方達は置いといて、次、いきましょうか」

蚊帳の外の我らは、大家さんの号令の下、会議を再開した。

「俺はないよ」

「私もです」

私と北山君に不満などなく、大家さんには微妙な顔をされた。
ないものはないんですよ。
回答権は先日部屋を移ったばかりの園田アキになる。

「………では、アキさん、部屋を変えてからどうですか?」

私達3人の視線を集めたアキ君は、俯きながらモゴモゴと口を動かす。
それが意味のある言葉なのか、口籠っているのか判別はつかない。

話すの、緊張しますよね。

微笑ましくアキ君を見ていると。

「うるっさい!」

盛り上がる3人に一喝した大家さん。
どちらが一番愛らしいかについての議論がぴたりと止まった。
大家さんは満足そうに微笑んでから、視線をアキ君に戻す。

「さぁ、どうぞ」

どうぞじゃないよ。
アキ君明らかに怯えてるよ。
恐怖と緊張で真っ青だよ。
大家さん怖いよ。

私は膝の上で絡ませた指を強く握り、逃げ出したい気持ちを抑えた。