学校中が生徒のざわめきで溢れる昼休み。
長引く筋肉痛を抱えながら、トイレに行こうと通りかかったクラス教室に、10人ほどの女子の塊があった。
何に集っているのか、気にはなるけど野次馬よろしく覗きに行く勇気もない。
女子の軍団、よく見る光景だ。
素通りしようと歩を進める。
が。
「キャァァァァァァァァ!」
普段なら気に留めもしないが、そこから女子の集団の甲高い声が響けば話は変わる。
どこからそんな声がでるのか、絶叫マシンにでも乗っているかのような悲鳴だ。
虫でも出たのかな。
「お人形さんみたい」
「アキ君カワイイ」
「次、これつけてみて」
「そのあとはこれね」
……。
聞き慣れた名を聞いた気がして、足を止めた。
気になる。
他人ならそれでよし、もし彼なら言い訳ができる、たぶん。
「なになに?」
「どしたの?」
追加で集まる女子に紛れて近寄り、背伸び、体を揺らして覗くと、彼女たちの中心に園田アキをみつけた。
彼は、編み込みのハーフアップに、大きな花の髪飾りをつけていた。
彼の頬がほんのり色づいているのは、照れか、化粧でもされたか。
いや、まつ毛長いから化粧?
ひとつ確かなことは、ここに集う女子と比べてもダントツで可愛い。
「一目見たときから化けるって思ってた! 可愛い!」
「まつ毛もビューラーだけでこの仕上がり!」
「肌もつやつやで羨ましい!」
「どんな洗顔使ってるの?」
「まじお人形だわ」
「次は黄色いリボン!」
「いいえ、ここは王道の色違いのピンクでしょ」
「絶対白がいい! 天使のような仕上がりになるはず!」
「きっと美の女神も嫉妬するわ」
「いいねそれ、採用」
「それじゃあ、このピンクの花外すよ」
「ところでアキ君、お兄さんと喧嘩でもしたの?」
「え?」
中心人物の一言に、女子達の顔が強張り、アキ君はきょとんとした。
「変な意味じゃないの。来なくなったおかげで、アキ君に話しかけることができたんだけど」
「そうそう、いつも一緒にいたお兄さん、かっこいいけど怖かったもんね」
「ねー」
もしかして、シュウ君の事?
彼女たちは、アキ君の方がお兄さんと知らないのでしょうか。
アキ君は、訂正するでもなく、引きつった愛想笑いを浮かべていた。
何も言わないってことは、双子には兄がいるのかもしれない。
「ねぇ、お兄さんに彼女っているのかな?」
「アンタ狙ってたの?」
「そんなんじゃないけど、気になるじゃん?」
その後、兄についての質問攻めに合うアキ君。
用事もない私は、踵を返す。
トイレに行く途中なのだ。
早く行かないと昼休みが終わってしまう。