「ここだ」

北山君とのんびり30分歩き、着いた。
板の塀に囲まれた入り口に『風花寮』の表札。
先を歩く北山君に続き、促されるままに足を踏み入れる。
正面には趣のある木造2階建て。
横には木や、季節の花々が植えてある小さめの庭がある。

なんか好きだ。
素敵なところだと思う。
パンフレットだけで決めたから不安だったけど、来てよかった。

北山君が振り返り、演劇調に両腕を広げた。

「ようこそ、風花寮に。歓迎するよ」

ニヒルな笑みに、堂々とした佇まい。

「それ、大家の科白ですよ」

間をおかず、庭の方から落ち着いた声がする。
振り向くと、漆黒の長髪を首の後ろでひとつに括った、袴の和服美人が竹箒を手に現れた。

彼はふわりと微笑んだので、私もつられて下手な笑みを返す。

「大家です。風花寮にようこそ」

「大家さん………、初めまして。今日からお世話になります、福井ゆきと申します。よろしくお願いします」

私もそれに、最敬礼で返した。

「楽にしてください。こんなところで立ち話もなんですし、中へどうぞ。他の住人の皆さんも集まってますよ」

促され、大家さんに続き、北山君と私が風花寮に入る。
靴を脱ぎ、踵を下駄箱に向けて置く。
ずり落ちた荷物を持ち直して、挨拶。

「お邪魔します……」

「ただいま、な」

北山君に訂正され、言い直す。

「ただい、ま…………?」

「今日からはあんたの家でもあるんだ」

私の家。
……そっか。

「すぐに慣れる」

彼はまた、ぽんぽんと私の頭を撫でていった。
少々浮ついた気持ちで彼を追う。
玄関を入ってすぐに、畳の部屋。
居間があり、そこにいくつかの人影があった。

「やっと来た、新入りちゃん」

「君が最後だよ」

「あっ、お待たせして申し訳ありません」

「遅刻したわけじゃないんだから、謝るな」

「すみません」

「……いいから座れ」

北山君に隣を勧められ、座布団の上に正座する。
待っていたように卓の上座に大家さんが座り、咳払いをした。
ここにいる全員の視線が大家さんに集まる。

「改めまして、風花寮の大家です。今日は集まってもらって有り難う」

礼をしたのに合わせて、頭を軽く下げた。

「先ほど今年の入居者が揃ったので、顔合わせをしておきたいと思い、集まってもらいました。まずは自己紹介を、北山さんから」

指名された北山君が頷き、視線を巡らせる。

「北山貴伊智、2年だ。よろしく」

次はあんた、と肘をつつかれたので口を開く。

「福井ゆき、1年です。よろしくお願いします」

それからは順序良く紹介が進む。

「青木理央、1年です。よろしくお願い致します」

七三分けの黒髪に眼鏡の、いかにも勉強できそうな少年だ。

「オレ、中島健吾、2年。よろしくー」

明るい、肩にかかるくらいの髪をゴムで軽く結っている、たれ目に泣きぼくろが特徴的な彼。