アキ君ばかりが話してて、私も相槌ばかりではいけないと思う。
何か、気の利いたことを言えたらいいと思う。

けど、こんな軽い言葉は言ってはいけない。
根拠のない否定は、救いにはならないと知っているから。
彼は今、己と向き合う為に、己を曝け出している途中なのだ。

私だって………………いや、今は止そう。
不幸くらべがしたいわけじゃない。

その後も出てくる、アキ君からシュウ君に対しての劣等感をただただ聞いていた。

「いつも『兄さんは可愛い』って言ってくるんだけど、同じ顔で何言ってんだって思うわけよ。ボクがチビで可愛いとでも言いたいのか! この際だから、首吊ったら身長伸びるかなって妙案を思いついたのに、邪魔されるし……」

「………」

「クラスも離れたから、やっと平穏が訪れたと思ったのに、わざわざ来て、ギリギリまでボクのところにいるし、挙げ句の果てに、クラスメートには仲良し兄弟と思われる始末。あいつはボクを自分の管理下に置きたいだけなんだよ!」

「………」

「ボクは兄だよ! 構われるんじゃなくて、構いたいんだ! 幼子じゃないんだ、出かけたりとかも、ひとりでできるよ!」

「………」

「交友関係だって、シュウがいて、なかなか広がらないんだ! 野蛮な男どもと兄さんを一緒にしておけないって、追い払っていくし。弟のくせに過保護過干渉なんだよ!」

遠くの黒猫がなだめるようにニャァと鳴く。

「………」

「はぁ、はぁ…………」

彼は休み少なに言い切って、切れた息をコーヒーを飲むことで整える。
冷たくなり始めたそれは、一気に半分以上減った。

「はぁ………ふぅ……………」

「………………」

私のちびちび飲んでいたコーヒーも、残りひと含みとなる。
そろそろ、夕飯の時間だ。
店内のデザイン性を重視した掛け時計を見ていたら、アキ君もそれに気付いた。

「ごめんね、こんな時間まで付き合わせて。………そろそろ出ようか」

彼は残りのコーヒーを一気飲みして、会計に向かう。
私も残りひと口を飲み干してから追いかけて。
アキ君が財布をポケットに入れるのと同時に、スクールバッグから財布を出そうとしたのを、彼の手に止められた。

「払っといたから……」

それだけ言って店を出るアキ君を、店員に一礼してから追いかけた。
扉を抜けたすぐに合流し、来た道とは違うけど、大通りに出るであろう方向に並んで歩く。

「……さっきのお会計ごめんね、帰ったら私のぶんだすから」

「これくらい、払わせて? ボクの話しを聞いてくれたお礼ってことで……」

「そう…………?」

大したことはしていない。
しかし、せっかくの申し出を跳ね除けるのも悪い気がした。

というのは間違いではないが、我を通すのは苦手なので受け入れる。

「なんで、私にあんな大事なこと話してくれたの?」

「大事なこと? ボクはただ、日頃の弟への鬱憤をぶつけただけだよ。ボクは弱いから………」

「そんなっ………」

「それに、なんでだろうね。…………なんだか、福井さん、ボクと同じな気がしたんだ」

「そぅ、なんだ……………」

胸がちくりと痛む。

「気にするなら、また一緒に寄り道しよ」

「………うん。その時は私がお会計もちますから」

「別にいいのに。でも、楽しみにしてる」

見慣れた道に出て来た。
横断歩道を渡り、少し脇道に踏み込んだところに風花寮はある。