時は過ぎ、6限目終了後。

「福井氏。………どこかに、僕の疲れを一瞬にして消してしまえる萌えはないだろうか………」

「……うん、お疲れ」

私の席に来た青木君の、開口一番がこれだった。

休み時間の度に中島君登場だと、そら、気が休まる暇もないでしょうね。
でもごめん。
私は同士じゃないから、青木君の言う萌えとかわかんないや。

それよりも、青木君と同種の方達の視線が痛い。
今朝、あれから青木君と距離を置いてたのに、なんであんたばっかりリオチャンと一緒にいるの、との副音声がガンガン聞こえる。
ボッチが構って欲しさに男に近づいちゃってさ。
ほんと邪魔、学校来んなよ。
とまで言われている気がした。

音として耳に届くわけじゃない。
けれど、直接心に刺さる。

別に、好きで私から近づいているわけじゃないのに………。

「時に福井氏」

「はい……!」

うつむき気味になるのを、青木君の声で戻された。

……………私は今、何を考えた?

「最近、僕プレゼンツBL講座を開いてないから、なまったんじゃないかな」

「そんなことは………」

「どうだい、今夜は久々に僕の部屋でゆっくりと…………」

遠くから、女子の黄色い声が近づいてくる。
青木君の顔が不自然に固まった。
本日何度も耳にした音。
理由なんて、言わずともわかる。

「中島先輩こんにちは!」

「今日も青木君のお迎えですか?」

すっかりお馴染みの登場。
中島先輩に上がる歓声。

「まずい、奴だ! ……くっそ、ことごとく僕の邪魔してくださりやがりますね!」

慌ててスクールバッグを担ぎなおし。

「福井氏。萌えがあったら教えておくれ。動画、画像があればなおよし! 今夜、僕の部屋でね!」

それだけ言って、青木君は教室を飛び出した。

「先輩! 青木君が逃走しました!」

「退路を塞げ!」

いつの間にかできていた、中島先輩を応援する会。
男女入り混じり、素晴らしい連携をとる。

「ここから先には行かせない!」

「そこをどけ!」

「おとなしく中島先輩に捕まりなさい!」

「リアルBLのために協力してくれるよね!」

「断る! 僕は傍観者だ!」

廊下から聞こえる怒声に、心の内で合掌した。

青木君ー、中島君に外堀埋められてますよー。

ハイスペックな攻めは、可愛い受けを逃す気はないらしい。
青木君は、中島君の愛の重さに逃亡するのだけど、中島君はどこまでも追いかける、と。

たとえ、ここで逃げきれたとしても、帰る先は一緒の風花寮なのにね。
意味あるのかな?

でも、風花寮なら大家さんもいる。
ひとまず、青木君監禁コースは無さそうです。