「ったく、あのチャラ男に関わるとろくなことがない」

「そんなことないって……………たぶん」

自信なく放った声は、周りの喧騒にかき消された。
1限開始前からぐったりしている青木君に、どう言葉をかけたらいいのでしょうか。

今朝、学校に来る時。
仲睦まじい中島君と青木君の背中を、北山君と見ていた。
中島君は幸せそうにしていたし、青木君もまんざらじゃなさそうに見えたから。
青木君は照れ隠しで、嫌がるふりをしてるのではないでしょうか。
そんな青木君に勇気を与えましょう。

「愛されてる証拠じゃないかな?」

ことごとく拒絶される中島君の擁護もしたくて言ってみると、青木君は一気に不機嫌になる。

「アイ? 愛は愛でもあれは、狂愛だね。かわいそうな受け側にはもれなく監禁のおまけ付きさ。見てるぶんにはいいんだけどね」

「監禁は犯罪じゃ………」

「俺以外と喋るな。俺以外見るな。俺以外の男の目に触れさせない。むしろ、俺以外の人の目にも触れさせない。とかとか、独占欲萌ゆるよね! 受けはあまりの愛の重さと息苦しさに逃亡するんだけど、ハイスペックな攻めは地の果てまでも追いかける。その時受けに協力者がついてくっつくパターンやー」

ペラペラペラペラペラペラペラペラ。
元気を取り戻した青木君のマシンガントークは止まらない。

「でー、ハイスペックな攻めに捕まってより強固な檻に囲われるパターンとかあるんだけどー」

するりと青木君の後ろに影が重なる。

「まずハイスペックなんだからー、愛する子を逃がすわけないでしょ」

「それはダメだ。一度は離れないと愛が深まらない」

「そうなんだー。じゃあ、調教の成果を見るためにわざと逃がしたんだね」

「夢がないよ。そこは慢心した攻めが気を抜いた隙に受けは逃げ出す。そして、攻めはもぬけの殻になった部屋を見てショックで抜け殻になるとか、荒れるとかの葛藤がないと」

「でも最後には、受けは自主的にハイスペックな攻めの元に帰ってくるんだよね。いろいろあったけど、あなたを放っておけないんだ。僕にはあなたがいないとダメだから。あなたのいない世界はどこか寂しくて。とかねー」

「そういうのが好きですか。どれも捨てがたいですが、元鞘エンドでも、協力者エンドでも、僕は最後に相思相愛ハッピーエンドであればなんでも……って、中島ァッ!」

後ろからぎゅむっと抱き込まれていることに、今気づいたらしい。

「どうしてここにいるんですか! ここ! 1年の! 教室!」

「りおちゃんのいるところオレありだよー」

「なしですよ!」

彼は必死に、中島君の腕から逃れようと奮闘する。
逃がさないと言わんばかりに、中島君は腕の力を強めた。

ぐええ、と青木君がうめく。

これが、中島君に捕まって、より強固な腕に囲われるパターンですね。
元鞘エンドの未来が見えますよ。

「あーあ。りおちゃんに出会えるって知ってたら留年したのにー」

さらに頬擦りなど始められて、身をよじり、叫ぶ。

「ひいいいぃぃっ! 恥ずかしいですよ、セ、ン、パ、イ!」

「きゃああぁぁぁぁっっ!」

遠くでこちらを見ていた女子が歓声を上げた。
独占欲萌ゆるのですね。

さすがは青木君と同種の方達。
まったく自重しないね!
そして欲に正直である。

「あの女邪魔! 見えないじゃない!」

「お呼びじゃないのよ!」

「あたしだって、近くで見たいのにぃ!」

「うっ……………」

なんか傷つく。
女子の団体さん、怖い………。
批判を受けた私は、背中を丸め自席へと退散した。