「オレは、ずっとキミを探してた。キミを想うたび夜も眠れず、試験勉強も手につかない日々。愛してるよ、ハニー」

「ちょっと待て! あんた誰だよ! 態度変わりすぎだろ! 落ち着け気持ち悪い!」

「落ち着いてられないよ! やっと、探し求めていた人に会えたのに! そしてオレは中島健吾。ハニーの旦那だよー」

「待てったら待て! 寄るな!」

「なんて残酷な事を言うのかな。……でもオレはわかってるからね。恥ずかしがって照れてるってこと」

「ちっがーう! 恥ずかしいのは貴方です!」

「離れているほどその愛は深まるというもの」

「わかんないよ! 話しを聞け!」

「わからないなら、教えてあげる。オレの愛の深さ」

「いらないから! そういうのは他の男にやってくれ! 僕はいらない!」

「オレ、男は趣味じゃないんだよねー」

「だったら引いてくれ、僕は男だ!」

「恋に性別は関係ないよ」

「手のひら返すの早すぎるし! それは他の男に言って!」

「どうしてなんとも思ってない人に愛を囁かなくちゃいけないのかなー?」

「僕は見る専なの。当事者になりたいんじゃないの!」

「まーまー、これからお風呂はいるんでしょー? 親睦を深めるために裸の付き合いといこうじゃないの」

「断る」

「背中流したげるよー」

「それくらいなら………って、僕の尻狙ってないか?」

「…………………まっさかー」

「その間が怖い!」

「コワクナイヨー。オレは少女マンガみたいな恋がしたいんだー」

「それ、僕が相手だと女性向けマンガみたいな恋になるんだけど!!」

「どっちも一緒でしょー? キュンキュンドキドキが詰まってるよぉ」

「一緒だけど一緒じゃないっ!」



ドッタンバッタン。
お風呂場から漏れ聞こえる声を聞きながら。
そっと大家さんが用意してくれたお茶をすする。

「平和だな」

「尊い犠牲です」

「もしかして、北山君と大家さんも……?」

「………勘違いすんな。狙われてたって意味じゃないぞ」

「ええ。中島君は度々寮に女性を連れ込むことがありましたから、これを機に無くなるのではと期待して、ね」

大家さんの読めない笑みと同時に、お風呂場より青木君の悲痛な悲鳴が届いた。