勉強を続ける気になれず、居間の出入り口を見続けていると、青木君が戻ってきた。

「なに、どうしたの?」

私と北山君の視線に迎えられ、困惑しているようだ。

「何でもない。青木君、目、大丈夫?」

「大丈夫、治ったよ。じゃあ、邪魔者がいないうちに勉強進めようか」

なんでもないことのように卓に向かい、彼は黙読を再開する。
気まずいながらも、私と北山君も続きに取り掛かる。

しばらくそうして、調子を取り戻してきた頃。
バタバタとすごい足音が近づいてきて、居間の前で急停止する。

「うるっせぇぞ! 床が抜けるじゃねぇか!」

「北山君、うちはそんなボロ家じゃないですよ」

北山君のお叱りと、いつの間にか現れた大家さんのツッコミもなんのその。

「さっき、洗面台に可愛い女の子いたんだけど、誰!?」

黙殺した中島君が、嬉々とした表情で問いかけてきた。

「女の子?」

場の視線が私に集まる。
私は違う違うと手を横に振った。

「ゆきちゃんみたいな地味子ちゃんじゃなくてさ、もう、ほんっと、美少女! きっとあの子がオレの運命! ビビッときた!」

「………あっそ」

キラキラした乙女の瞳をして語る中島君に、興味を無くしたらしい北山君。

「…………」

「……………」

一方、私と青木君には、中島君の言う美少女に心当たりがあった。

大家さんは少し考えた後。

「………変ですね。今日はお客様のいらっしゃる予定はないはずですが」

「そんなことより! 大家さん、そろそろ夕飯の支度始めるんですか?」

「ええ」

場の空気を変えるように、青木君が手を挙げる。

「では、僕手伝います」

「おや、珍しいですね」

「今、とってもお手伝いしたい気分なんですよ!」

炊事場に行く大家さんを追う青木君。
私も何か手伝おうかと立とうとするが、北山君に制される。

「手伝いはひとりで十分だ。ゆきは欠点とらないことだけ考えとけばいい」

「………はい」

私はその言葉に甘え、勉強に集中した。