一月経っても、青木君の勢いは止まらない。
移動教室中。
じゃれ合う男子を堂々とストーキング。
ただの向かう先が一緒の移動教室の筈なのに、彼がやるとたちまちストーキングの様相と化す。
なんたって言動が。
「ねえねえ、さっきの見た!? 教科書で頭ポン! 頭ポン!! ポンする時のツンデレもいいけど、ドジっ子のあの照れた感じもいいいぃぃ!!」
私の右腕が青木君に絡め取られる。
あまりの締め付け具合に、痺れて、血流が止まりそうだ。
「青木君、落ち着いて……」
「もえええぇぇぇ!」
ガリ勉の外見で眼鏡取ったら美少女の、中身腐男子青木理央。
公共の場でも自重しない勇者。
救いは、これでも周囲への配慮を忘れず小声である事。
曰く、カップルのイチャコラを見守るのみ。
決して邪魔してはならないのだそうです。
青木君を片腕に巻きつけ、クラスメートの後ろをついていくと、前から体操服の集団がやって来た。
「健吾くん、今日のシュート凄かったね!」
「レディー達の応援があったからさ」
「キャー!」
「ドリブルも素敵だったよ!」
「レディー達にカッコ悪いところなんて見せられないからね」
「キャー!!」
長身の男子を団子のように囲う女子達。
その彼に、仲良しな子が多いことを羨ましがりつつも、少しばかり同情した。
片腕に青木君だけでも歩きづらいのだから。
四方を埋められると邪魔な事この上ないよね。
足踏みそうだし。
体操服をあっちこっちから引っ張られ、伸びて破れそう。
それでも爽やかに受け応えって、すごいなー。
へろへろになった体操服が気になって仕方ないよ……。
一体どんな人なのだろうと気になって、見続けていると。
「…………ぁ」
「……………」
すれ違う際、女子供の隙間から見えた。
髪型はいつもと違うけれど、甘いマスクのたれ目に泣きぼくろ。
風花寮の住人。
中島健吾その人だった。
「ただいまー」
「ただいまです」
「おっかー」
青木君のBLウォッチングに付き合い、風花寮に帰ると、居間に中島君がいた。
へらへらした顔が気持ち悪い。
「珍しいね、中島君がこんな時間から寮にいるなんて」
青木君が不思議そうに尋ねる。
確かに、いつも夕飯ギリギリまで帰らない中島君。
時々夕飯のお断りを入れる、遊びまわってる中島君が、早くからいるなんて珍しい。
「んー、今日はぁ、特別」
「特別って?」
「ふたりに聞きたいことがあってさ。ここ座んなよ」
中島君は、卓を挟んだ向かいに促した。