昼休みが終わってからの、授業合間の休み時間。
青木君が私の席に来ることはなかった。
昼のこともあり、気まずくて。
少しだけ、助かったと思っている。

気まずさが無かったとしても、私から行く勇気はない。
じっと下を向いて孤独感を味わっているのみ。

こんな私、嫌いだ。

6限目を終えると、下校時間になる。

生徒が各々の時間を過ごす中。
青木君の席を見ると、鞄がなくなっていた。
もう帰ったようだ。

私も重たいスクールバッグをもって、帰路につく。
足下のアリが、1匹で自身より大きなものを運んでいる。

青木君……。
朝は一緒に行こうと言ってくれたのに。
男子同士でいなくていいのか聞いたばっかりに、怒らせちゃったんだ。

私、またやっちゃったな………。

通常10分の道のりを倍かけて進む。
横にいた働きアリが、いつの間にか3歩先を行っていた。

寮につけば、嫌でも青木君と顔を合わせることになる。
分かっているから、余計に足取りが重い。

「はぁ………」

「よお、ゆき。暗い顔してどうした」

肩を叩かれ振り返ると、頬を突かれた。
幼い頃に流行ったあれ。

「北山君……」

「学校でなんかあったか?」

「うん………」

幾分か沈んだ声になる。
下を向くと、ぽんぽんと頭を撫でられた。

「失敗は誰にでもあることだ。大事なのは、これからどうするか」

「えっ………」

「逃げんのか?」

問いに対する答えはもちろん。

「……逃げたい、です。でも、できないから」

毎日会う人だから。
逃げられない。

「決まってるなら話は早い。少しでも良くなるように、行ってきな」

「はいっ」

背中を押され、風花寮まで走り出す。
門をくぐったところで足を止め、ふと思う。

北山君のノリに流されてきちゃったけど、解決策なんてなにも考えてないわ。
………でも、行くしかない。
行って、謝り倒す。
何が気に障ったのかわからないけど、それでも、誠意を見せればきっとわかってくれると信じて。

「ただいまー!」

気合を入れるように大声をだす。
玄関には青木君のものらしき靴がある。

荷物を自室においてから、昼休みの言葉を信じて、青木君の部屋を訪ねた。
扉を3回ノックしてから。

「あの、青木君。今日は気に障ること言っちゃってごめんなさい!」

扉越しに謝罪した。