初登校なので、緊張のせいか、かなり早い時間に学校に着いた。

ちょっと早すぎたかな。

と、心配になったのも杞憂に終わる。
教室に近づくほどに大きくなる声。
それは複数人あり、とても盛り上がっているようだった。

「おはようございます………」

にぎやかな教室の前から入り、挨拶をするが、生徒たちは見向きもしてくれない。

……うん、期待してなかった。

恥ずかしくて、俯いたまま自席につく。
至近距離で机とにらめっこを、どれくらいしていただろうか。

「おはよ」

耳元で声をかけられた。

「お、おはよう」

驚いてはね起きると、七三分けの眼鏡がいた。

「青木君……!」

「行先は一緒なんだよ。明日からは一緒に登校しよう、同士よ!」

親指をたて、眼鏡を光らせる。
私はすっかり彼に同士認定されている。
たった一晩、話を聞いていただけなのに。

「もしかして、同じクラスでしたか?」

「もしかしなくてもだよ。僕の席はあそこね」

青木君が指したのは、右端の一番後ろ。
自己紹介聞いてなかったから、知らなかった。

「でさー、早速なんだけど……」

こそこそと耳打ちされる。

「あそこの男子グループ、小さい子の総受けだと思わない?」

「……はい………?」

「いや、でも顔はいいからロールキャベツの可能性もあるし。だったら、あの平凡が受けってことになる」

「へぇ………」

「えっ? リバだって? 僕は固定カプが好きなんだけどな」

そんなこと、一言も言ってない。

「今のところは様子見かな」

「へぇ……」

まずい。
何言ってるかさっぱりわからない。

でも。

周りがそれぞれのグループを作る中、独りじゃないことが私を安心させた。

「おお、福井氏お目が高い! 彼こそがこのクラス最高の王道要員! 昨日は他のクラスの男子のお迎えを待っていたのですぞ!」

私の視線の先にたまたま居た、スマホをいじっている男子生徒が餌食になった。

「きっと今、愛しの彼とラブラブメールの最中なのでしょう。だがしかし、違うクラスという障害を前に、その恋は儚くも散ってしまうのです」

破局した………。

「元彼を忘れられない少年。そこに彗星のごとく現れたイケメン先輩。イケメン先輩は少年に彼氏がいると知って身を引いていたが、別れたことを知り、満を持して登場。『ずっと好きだった。元彼の事を忘れろとは言わない。俺のこと知っていって、いつかキミのトクベツにして…』元彼は同じクラスの可愛い子と付き合ったが、少年の事が忘れられず。『俺が悪かった。やっぱりオマエじゃないとダメなんだ!』ヨリを戻そうとするが、少年はイケメン先輩といい仲になっていた。『後から出てきて何様のつもりだ!』『俺はずっと見守ってた。いきなり彼を捨てて今更戻ってくるなんて、都合がいい話だな』元彼とイケメン先輩が少年を取り合う。元彼とイケメン先輩で揺れる少年の心。『僕が好きなのは……』少年は自身の心に問いかけ、出した答えは」

キーンコーンカーンコーン。
予鈴が鳴る。

「おっと、時間か。また来るよ」

手を振って、自席に戻る青木君。
私も手を振りかえした。

で、少年はどっちを選んだのかな。