振り返ると、七三分けに眼鏡を光らせた青木君が仁王立ちしていて。

「申し訳ございませんでした!!」

私はがばりと土下座した。

「あのっ、青木君を呼びに来て、部屋を覗いたところ、気になって。……えと、人様の部屋に入って勝手にマンガ読んでしまって、まことに申し訳ございませんでした!」

「………」

何も言わない青木君。
私は無言で謝罪の気持ちが伝わるよう、頭を下げ続けた。

「………………………面白かった?」

「ぇ……?」

「その本、面白かったのか? と訊いています」

「は、はい! とってもおもしろかったです!」

上体を跳ね上げ、本の感想を伝えた。
彼はにんまり口角を上げると。

「そうならそうと、早く言ってよー!」

「えええっ!」

がばりと抱きついてきた。
頭と肩を抱えられるようにされ崩れそうになるが、床についた両手で支える。

「もー。同志がこんな近くにいるなんて、寮に入ってよかったー!!」

「え、いや、同志………?」

「ご飯の後、BLについて語り合おうではないか!」

「あの、だから………」

「はっはっはー!」

と、高らかに笑い、私の腕をつかんでいく青木君。
疑問の声も聞きやしない。
居間には、ふたりぶんのご飯しか残されていなかった。

「おや、随分と遅かったですね」

食卓についた時の、大家さんの視線が痛い。

「すみません」

青木君を呼びに行ったはずなのに、青木君に呼ばれて来るなんて。

「構いませんよ。さ、冷めてしまっていますが、どうぞ」

「すみません、いただきます」

食卓に着き、箸をとった。

「いただきます」

隣に座った青木君は始終ご機嫌だった。

夕食後は宣言通り、彼の部屋に拉致されて。

「寮にはいってよかったよ、イケメンの宝庫! 男子率高し! 妄想し放題! 大家さんはエス攻めでも、健気受けもいい。美人はどっち側でも映える! 不良の北山君は攻め一択! チャラ男の中島君も左側かな、でも右側でもいい仕事しそう! 双子は禁断の近親相姦! やっぱり、弟かける兄だよね、身長的に! 兄は庇護欲がそそられるし、弟は執着攻め! でも顔は一緒だから……」

以下割愛。

「でも一番の理由は、同志に出会えたのだから! これからよろしく、福井氏」

マシンガンのように、よくわからない話を長々と聞かされることとなった。