学校から徒歩10分の距離にある風花寮の戸を開く。

「ただいまー」

返事はない。
皆まだ学校にいるようだ。

靴を脱ぎ、まっすぐ自分の部屋に帰った。
制服をハンガーにかけ、部屋着に着替える。

もらったばかりの教科書を本棚に仕舞おうとすると、目についたケータイ小説。
『ゆき。』という作家の本が、作品ごとに2冊ずつ数種類。

寝転んで、適当にとった一冊を読み進める。

入学式で、隣の席になった女の子に話しかけられて友達になる。
話しかけてもらうきっかけは、鞄についていたストラップがお揃いだったから。
仲良くなれると思ったらしい。

こんなにも簡単に書かれているのに、現実ではそれすらも難しい。
既に出来上がっているグループ、盛り上がっている会話。
入って行こうにも、周りの話していることなんて、意味が分からないことばかりだったから。

一冊読み終えると、ちょうど夕飯の時間だった。

積み上げたままだった教科書を本棚に入れ、読んでいたケータイ小説を元の位置に戻した。

居間に行くと、中島君と園田双子がバラエティ番組を見ている。
北山君と大家さんが炊事場で準備をしているところで。

「あの、何かお手伝いしましょうか?」

大家さんに声をかけると。

「では、青木さんを呼んできてもらえますか?」

「青木さん………」

「階段あがってすぐの部屋です」

「わかりました」

唯一この場にいなかった青木君を呼びに行くことになりました。

2階に上がってすぐの扉。
緊張する。
軽く拳を作り、扉を3回ノックする。

「青木君、ご飯ですよ……」

………返事がない。
もう一度ノックする。

「青木君ー?」

…………やはり返事がない。
眠っているのでしょうか。

「しつれいしまーす………」

大家さんから承った使命を果たすため、ゆっくりと扉を開けた。
隙間から覗くが、よくわからない。
思い切って全部開けると、不規則に山積みされた本に迎えられた。
青木君は居ないようだ。

にしても、意外だった。
青木君の外見は、がり勉君なのに、こんなにマンガがあるなんて。
…………ちょっとくらい、いいかな。

部屋に入り、手に取ると、表紙絵は花と2人の肌色の組み合わせが多い。
少々山を崩させていただき、好みの絵のものを開いた。

前髪で顔を隠したかわいい子が、同じクラスのイケメンとずっと一緒にいる。
どうやら幼馴染らしい。
イケメンはかわいい子に虫がつかないよう、ずっと囲っていたが、イケメンに釣り合うようになりたいかわいい子が、顔をさらして人気者になるから、イケメンが嫉妬するという話。

うん、案外面白い。

一冊読み終わったので、他のものも読んでみようかと手を伸ばしたところで。

「みーたーなー」

背中から低い声が聞こえてきて、身体が跳ねた。