僕は、いつも通り自堕落な生活を送っている。

ご飯はメイドが作ってくれるし、お風呂だって勝手に湧いている。

何もしなくていい。

ただ、生きているだけでいいのだ。

……いや、良くはない。
僕だってそれくらい分かっている。

でもどうせ、頑張ったって何も得ることはできない。

お姫様という立場に生まれていながらも、気を抜けば記憶だって抜けてしまうような劣化人間なのだ。

学校にだって行っていない。

行ったところで、浮いてしまうだけなのだ。
それだけは勘弁だ。

女子は面倒くさいし、男子は五月蝿い。

あんなところにいたら、記憶どころか存在が消えてしまいそうだ。
まあ、それは大げさだけど。

とにかく僕は、何もしないのではなく、何もできないのだ。
それを分かっているからか、メイドは何も言ってこない。

……このままじゃいけないんだろうけど、社会からすれば僕は意味のない人間なのだろうけど、僕はこのままでいるしかないのだ。

今もベッドの上でライトノベルなるものを読んでいる。
普通の小説も読むが、どちらかというとこっちの方が好きだ。

僕はファンタジーは読まない。

だって、あの中のどのキャラクターよりも、僕が劣っているから。
魔法がだんだん上達してくる主人公を想像するのが嫌だ。
あんなに魔法の世界はキラキラしてなんかない。

とにかく、僕はファンタジーが大嫌いだ。

でも、何処かにはあるんだろうか。


キラキラした魔法の世界が。



……馬鹿らしい。
そんなこと考えないで本の世界に引きこもろう。
本の中だったら、僕は完全に独りになれるんだ。

集中しようとしていると、ドアをノックする音が部屋に響いた。

珍しいな。普段は僕が呼ばない限りなかなか入ってこないのに。

軽く「なに」と返事をすると、僕の機嫌を伺うかのように恐る恐る入ってきた。

「今宜しいでしょうか。」

丁寧な言葉遣いが鬱陶しい。
そんなに距離をとられると困るんだよ。
……かといって、あんまり踏み込まれても嫌だけど。

「別に。本読んでただけだから。それよりも本題はなんなの?」

僕は彼女を焦らせる。

「は、はい。来客です」
「僕に?他の人じゃダメなの?」
「はい。申し訳ありません。御本人でないと都合が宜しくないようで。」

やれやれとベッドを降りる。
来客か……誰だろ。